#nvdajp ユーザガイドの点訳リリース

オープンソースのスクリーンリーダを日本語化している「NVDA日本語化プロジェクト」では、Web による情報発信に加えて、いままでコンピュータを使っておられなかった方に NVDA を使っていただくための工夫をしたいと考えています。
今回、NVDAユーザガイド日本語版の点訳をsourceforge.jpからリリースしました。これはBESとよばれている形式のファイルで、私の手元では「点字ビューア」での閲覧確認を行いました。


この点訳版については「サピエ図書館」への登録も進めていただいています。サピエ図書館が利用可能な方はダウンロードサービスに加えて簡易製本の貸し出しサービスを受けられるとのことです。ちなみに、サピエにはいわゆる書籍だけでなく、家電製品のマニュアルなども登録されているそうです。
視覚に障害をお持ちの方の多くの方は、まだまだコンピュータを利用しておられないと思われます。この点訳版が、スクリーンリーダでコンピュータを利用してみたいと思う方への一つのきっかけになればと考えています。ただ、あくまでもスクリーンリーダの操作方法を説明しているユーザガイドであり、本当はもっと親切な入門書が必要なのだろうと思います。これは今後の課題だと思っています。
ふだん点字で読書をなさる方は、まだまだオープンソースソフトウェアという世界になじみのない方も多いのでは、という議論も出ています。でも、先日の #pyconjp でもお話しましたが、コンピュータ技術者やプログラマーという職種は、高機能のスクリーンリーダさえあれば、もっともっと広まってもいいはずの職種なのです。
私はたまたま「サピエ図書館」の立ち上げ準備を少しだけお手伝いした縁で、点訳や音訳に関わっておられる皆様のことを、ほんの少しだけ理解できました。そして今回、点訳の活動をすこしだけ見守らせていただいて、またまた、作業をなさる方の「プロフェッショナル意識」とでもいうべきものに頭が下がる思いでした。せめて、作業に必要な技能、かかった時間と人数と費用など、ちゃんと報告していただければ、とお願いしたのですが、どうやらボランティアで点訳をなさってる方々は、そういうことはあまりご自身からお話にならないようです。
ちょっとでも「点訳という活動」を可視化したいと思い、点字ビューアの画面をキャプチャしました(上記の写真)。
「サピエ図書館」のような機関は原則として晴眼者の利用を許可していません(点訳や音訳のボランティアの方々が活動しやすいように著作権法が改正されたのがわずか1年前のことです)。
私は個人的に、晴眼者、特に出版関係者やソフトウェア技術者が、DAISY書籍や点訳書籍について知る機会がないことを、あまりにも残念に思います。
ずっと音声インタフェース、マルチモーダル技術に関わってきた私は、あるとき W3C の SMIL という技術のことを知り、そしてその後 DAISY が SMIL を上手に活用して「アクセシブルな電子書籍技術」を実現していたと知って、驚いたと同時に、心を打たれました。
その後もいろいろな事例に触れるたびに、アクセシビリティの技術こそが、インタフェース技術やメディア技術を正しく進化させるキープレイヤーだと気づかされ続けています。
しかしその DAISY コンテンツを制作する現場は、紙の本を読み上げたり点字エディタに打ち込んだりする、無償のボランティアの皆様に支えられている、そんな現状についても私なりに理解しているつもりです。
いわゆる「自炊」「電書」の祖先は、人目につかない場所でひっそりと数十年にわたって続いていたというのに、その歴史が顧みられることなく、いま何度目かの「電子書籍ブーム」に巷は沸いています。そして「リフローは善か悪か」といった議論が起きては消えています。
例えば、書籍は装丁や組版まで含めたすべてが「書籍」であり、その総体としての書籍のあり方を否定する「リフロー」は「書籍の否定」である、という主張があるとします。でも、「リフローが悪」だったら、音訳や点訳で読書をしている人はどうなるのでしょうか。。
とはいえこの問題はきっと「リフローを許容しつつ、デバイスに特化したレイアウトのこだわりも許容する」新たな技術が登場すれば解決する、と私は楽観的に思っています。
などと言っていたら、今日は印刷製本した自分の学位論文の装丁・組版に不備があるとの御指摘をいただきました。
もうしばらくは墨字へのこだわりを持ち続けなくてはいけないようです。。


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