研究とマーケティング

今回のHCGシンポジウムの原島先生とクリプトン伊藤氏の講演について考えている。
原島先生の「ループモデル」からアラン・クーパーの主張を連想した。
「機能を作ってからインタフェースを作る」のではなく「まずユーザにインタフェースを見せてフィードバックを得てから、そのインタフェースに機能を付与していく」というクーパーの提案は、彼が設計したとされる Visual Basic のコンセプトに繋がる。
原島先生のループモデルは「研究が完成してから成果を世に出す」のではなく「まず実装を世に出して評価を受けながら、要素技術を研究し、論文も書く」ということだと理解している。従来と順番を逆転させることで「社会にいかに受容されるか」を意識した研究開発を行う、という意味で、インタフェースと話がつながる。

インタフェースとの繋がりという意味では、伊藤氏の講演は「初音ミクは創造のインタフェース」という立場から、著作権との整合について論じるお話だった。
開発ツールベンダの立場が非常によく理解できる講演であり、私は「創業時のMicrosoftはBASICの売り方=ライセンスを工夫して成功した」という逸話を連想した。
「科学技術を文化に」という主張は一歩深く考えると「技術にマーケティングを」に聞こえる。
技術者・研究者はマーケティングをしたいか?というと違和感がある。
しかし「研究者・技術者はプレゼンテーションが大事」が常識となった現在となっては「次はマーケティング」も極端ではない意見だ。
おそらく企業の研究所はどのようなタイミングでニュースリリースを出すか意識しているだろうし、最近は大学の研究者もそういう意識を持たされつつある。
「マーケティング」という言葉の定義に自信はないが、原島先生の「ループモデル」=「ユーザを得ることが研究の出発点」ならば、それは「マーケティング」だ。
プレゼンで感心させるよりマーケティングでユーザを集めるべき。。
ユーザをたくさん集めるべきか、絞って良質のユーザを得るべきか、といったことも研究の戦略になろうだろう。
きっと商品販売のマーケティングにもそういうことがあるのではないか。
そう考えれば「アクセシビリティの研究開発」にさえ当てはまるのではないか。
著作権モデル(あるいはオープンソース戦略)も「どのように広めるか」というマーケティングに関連する。
研究が社会に支持されるための情報発信と考えれば「事業仕分け」も関係してくる話だ。
「文化」を「マーケティング」に置き換える考察は、問題提起を矮小化している気もする。
だが、ループモデルを実践するとなると、すでに知名度や影響力を持つ人や組織にしか「新しい研究のチャンス」がないとしたら、残念なことである。
私は個人的には、論文を書くような大学院生や研究者は、ブログやTwitterを使ったほうが良い(できれば英語で、そして実名で。別途匿名で情報発信してもいいけど。。)と考えている。もしかするとこれは、自分という商品のマーケティング戦略の一部なのかも知れない。あるいはループモデルのための「情報発信力」養成術なのかも知れない。