夏の読書と冬の記憶

この数日、集中して読書をしている。

残念な人の英語勉強法
残念な人の英語勉強法

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山崎将志 Dean R. Rogers
幻冬舎
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山崎将志, Dean R. Rogers 「残念な人の英語勉強法」は、大人になってから英語を学び直したい人が、どんな勉強方法を、どんなツールを選べばよいか、合理的な情報を提供している。著者たちが経営する英会話学校の宣伝だけではなく、自分たちの活動を「英語教育に関する実験、結果、考察」としてまとめているのだ。「科学的に」といえるほど厳密ではないが、十分な説得力はある。そして、語学教育の研究者は、もしかしたらこの本から実験計画のヒントを得られるかも知れない。

本書の一節で述べられている「仕事ができると英語もできるようになる」という身も蓋もない現実は、私も英語の論文を書いたり学会発表をこなしたりする経験の中で実感してきた。山崎氏が重要性を主張する「伝えたいことが明確で、その話の構成が筋道立っている」というスキルについて、私がここ何年か自分の仕事だけでなく大学院生の論文指導にも役立てた本は「理系のための英語ライティング上達法」(倉島保美)である。メソッドが単純で実践しやすいということもあるが、実はこの手のコミュニケーションスキルは英語だけでなく日本語の文章を書くときにも有用なのだ。。

理系のための英語ライティング上達法 (ブルーバックス)
倉島 保美
講談社
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山崎氏の本に戻ると、この本はそういう語学教育業界の人が言いたくないような事をズバズバ書いている。学習における「モチベーション」の重要性にも触れられており、やる気を維持しやすい学習方法の提案もなされている。TOEIC 満点を目指すハイレベルの読者だけでなく、中学校から英語をやり直したい人にも、お金をかけないで実践できる「最初の一歩」を提示している。具体的なことは本書を手にとっていただきたいが、約200ページの「読み物」としては、とても良心的である。
私は大学生のころ一度だけ TOEIC を受けて735点だった。いま受験したらどのくらいの点数なのだろうか、とずっと思い続けてきた。山崎氏はこの本で「730点取れたらTOEICの勉強を離れる」ことを薦めている。だがこの十数年間を振り返ると、山崎氏の提案どおりに勉強してきたとは言いがたい部分もある。いまいちど、自分のスキルの「土台」を見つめ直したいと感じた。

堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方
堀江 貴文
ソフトバンククリエイティブ
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「堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方」は近所の公共図書館の書架で見つけた。ページをめくると「オン・ザ・エッヂ」の創業に関する非常に具体的な体験がまとめられていた。2004年9月7日第一刷、そして私が借りてきたのは2004年9月17日第三刷である。ひととおり読み終えて、手元に置いておきたくなったので、ネットで古書(一刷)を購入した。増刷時に削除された部分があるらしいのでわざわざ一刷を選んだ。
2004年12月に、私はテレビで堀江氏が出演するクイズ番組を見た。たしかミクシィ日記に書いたはず、と思って調べてみたら、こんな文章が残っていた。

(2004年12月30日の私のミクシィ日記、ここから)
昨日からの体調不良で一日中ぐったり。多少元気になったので、部屋で仕事。朝も昼もちゃんと食事できなかったが、夕食は「谷中料理・大使館」でレバニラ炒め。自宅ではテレビを見ないので、こういうところでテレビを見る。
番組はみのもんたの「ミリオネア」。ライブドアの堀江社長が登場。最初からお金は新潟地震被災者に寄付する、と豪語していた彼は、実は駒場寮の住人だった。ふーん。
5万円くらいの「エビで??を釣る」でかなり焦っていたようだが、けっきょく1000万円を獲得していた。
1000万円の問題は「竹取物語のかぐや姫が生まれたときに身長は何センチだったか」というものだったが、ライフラインを使い果たした彼は、竹の太さや節の長さから考えて、9センチしかないだろう、という判断。15センチだと竹を切ったときに子供を切ってしまうのではないか。。。
なるほど、と感心しながら、「大使館」を去りながら思い出したのは、「10秒間@マネジャー インターネット・スピードで経営するための7つの心得」Mark Breier (原著), Armin A. Brott (原著),仁平 和夫 (翻訳) に書いてあったエピソードだった。
いま手元にその本がないけれど、アマゾンの元副社長である著者が、ドットコム企業を成功させるためのエピソードをいろいろ語る本の中に、採用面接の中で、「○○シティーに全部で信号はいくつあるか」という質問をする話があった。そういう雑学を知っていることが重要なのではなく、その街に道路はどのくらいあるか推測ができ、信号はだいたい何メートルおきにあり、といった計算がとっさにできるかどうか、を問うのだ。同じような話はJ.ベントリーの「珠玉のプログラミング」の続編である「プログラマのうちあけ話」に「封筒裏の計算」として出てくる。
なんだかんだ言いながらも、堀江氏はIT時代の判断力と行動力の持ち主であり、「高速道路に乗ってやってきた若者」であることを強く感じた。
(2004年12月30日の私のミクシィ日記、ここまで)

10秒間@マネジャー―インターネット・スピードで経営するための7つの心得
マーク ブライアー アーミン・A. ブロット
日本経済新聞社
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プログラマのうちあけ話―続・プログラム設計の着想
J.L. ベントリー
近代科学社
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そのクイズ番組の中で堀江氏は「来年はみんながビックリするようなことをします」と言っていたことを覚えている。
そのとき彼が出演していた放送局の買収は、まさにそのころ計画されていたのだろう。。
その後の出来事が「歴史的事件」となり、一つの答えが出てしまったいま、わざわざこの堀江氏の本を手元に置いておきたいと思う理由は、成毛眞「会社のつくり方」のような起業マニュアルが、網羅的で示唆深いとはいえ、淡々としすぎていて味気ないからだ。

会社のつくり方 (日経文庫)
成毛 眞
日本経済新聞社
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ブックオフでときどき目にする堀江氏の本は、タイトルが刺激的なわりには、内容は堅実で具体的・実践的なものが多い。だが、私が「買って繰り返し読みたい」と思う本には今まで出会ったことがなかった。
この「カンタン!儲かる」という本も、タイトルこそ刺激的だが、決して「カンタン!」には見えない。
この本には巻末付録として株式会社オン・ザ・エッヂの事業計画書、上場申請のための有価証券報告書、販売管理規定が、小さな活字で遠慮がちに掲載されている。この本は歴史に名を残した一つのベンチャー企業の記録でありながら、会社を作りたい人のためのテンプレート集でもあるのだ。。
そう、大学を退職した私が書けなくて焦っているものは、まさにこの事業計画書なのだ。。
堀江氏が高らかに掲げた挑戦にはひとまず結末が訪れて、歴史に刻まれた。私には堀江氏が問われた犯罪のことはよくわからない。しかし、2004年の年末に私がテレビを見て感心した彼の能力は、その後ブームになった「地頭力」そのものであったし、この本の冒頭に掲げられた「若い世代は搾取されている」という問題提起も、昨今日本や世界で頻繁に起こるようになった暴動やデモと無縁ではないように思えてならない。

地頭力のココロ 本質を見る思考力を育てる物語
細谷 功
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