契約から善意へ

学会や研究会における「情報保障のあり方」の問題提起です。
先日書いた音声認識を使った情報保障の企画案をもう少し具体的に考えてみました。
静岡大学の秡川氏による「てごろでがっちり情報保障」というコンセプトが議論の出発点です。いままでずっと「機が熟していない」と思ってきました。しかし「そろそろいけるかも」と考え始めています。

現在、福祉情報工学研究会で行っている(そして多くの場面で行われている)情報保障を「契約による情報保障」と呼んでみます。
実際に契約を交わさないこともあるのですが、いちおう「やってほしい」という要望をうけて「やってください」とお願いをして「やります」と引き受けてもらうものです。
実施してくださる側は「こういう情報が事前に必要です」とおっしゃったりします。あるいは「情報保障に関するテキストの保存や公開、録画など」については制約があったり事前の交渉が必要であったりします。
特に費用が発生する場合は「いくらお支払いすれば何ができるようになるのか」を依頼する側も明確にして行うことは、妥当だと思います。
だから、こういう従来の情報保障は乱暴ですが「契約によるもの」とくくって良いと思っています。
音声認識技術を使った情報保障はこれまでも試みられてきました。リスピーク方式、事前の語彙登録、などなど、テクニックはいろいろあるでしょうが、「ないよりはあった方が良い」という状況になりつつあると思っています。しかし「会議への参加における平等を実現する」「情報を保障する」という意味では、「契約に基づいて実施してくださるプロフェッショナル」にはかなわない、ということも多々ありそうです。
なぜなら情報保障のプロフェッショナルは「単に音声を文字化する・手話化する」のではなく「音声が聞こえない方が会議に参加できるようにする」ことを支援しておられるからです。話されたことを一字一句文字にするよりも、上手に言い回しを工夫して文字数を減らした方が良い、という場合もあります。私はそういったテクニックを現場でいろいろ拝見してきました。そして見よう見まねでやっているのが私の自己流Twitter中継です。
いずれにせよ「音声認識による情報保障」は現時点では「契約」に値するものではなく、運営側が最低限のコストで実現できるであろう一種の「善意」ではないか、と感じています。
もう一つ私は Ustream や Twitter といった新しいネットサービスによる「空間を超えてイベントに参加する」「リアルタイムにテキスト情報を共有する」ことの可能性に着目しています。
この数カ月、私自身がTwitter中継で、リアルタイムに会議に参加してくださる私のフォロワーの方々とのやりとりも経験しました。そして「会議に参加することのバリア」すら超えつつあることに予想外の驚きと喜びを感じました。
あるいは、動画ストリーム中継を数百人が同時に見ながら、Twitterで議論をする、ということの新鮮さ、有益さに魅力を感じ始めている人は(少数派とはいえ)いらっしゃると思います。
ケツダンポトフさんを今、日本で一番面白い(有益な)放送局だと思う人は私だけではないはず。。。
携帯テレビ電話で視覚障害の方の目の代わりをお手伝いする「テレサポート」というコンセプトがあります。もしかすると世界中どこにいても Ustream と Twitter で「会議の内容をテキストに変換してあげること」ができて、世界中どこにいてもその会議に参加できる、究極の情報保障は、もうそこまで来ているのかも知れない。。
私はこれを「善意による情報保障」のひとつの究極だと思い始めました。
そんなわけで、聴覚障害の支援に限定して整理してみました:
レベル0:運営側は動画中継やテキスト中継の環境だけを提供する。善意で議論の内容をまとめて文字化してくれる人がいれば、聴覚に障害がある人も参加しやすくなる、と期待する。(各自持ち込んだPCを利用する。ネット環境は提供する)
レベル1:運営側が「音声認識による字幕」を提供する。設備は音声認識用PCや字幕用スクリーンを用意する。最低限の環境として例えば Julius2IPTalk =フリーソフトでの情報保障を行う。また、商用の音声認識ベンダーや、関連する研究グループに「情報保障スポンサー」になっていただけるとありがたい。
レベル2:WITで従来行っているPC要約筆記・手話通訳
私は決して、現在の情報保障のレベルを落としたいとか、プロフェッショナルの仕事の場を奪おうとしているのではありません。情報保障のコストと品質のトレードオフを明確にして「誰でも参加できる学会・研究会・会議」の裾野を広げたいと考えているのです。
そんなわけで、私は今レベル0およびレベル1の実践の場を、提案し始めているところです。そして可能な限り私自身がひとりの「つぶやき手」として関わっていきたいと思います。