福祉情報工学研究会(WIT)が公開している論文作成・発表アクセシビリティガイドラインには「論文作成アクセシビリティガイドライン」が含まれていますが、PDFに関する情報が含まれていません。研究会では墨字の予稿集を発行しており、視覚に障害をお持ちの方から御要望をいただいた場合にはテキスト版やPDFデータをご提供しています。
多くの学会で研究会の予稿を電子版のみにすることが一般的になりつつあります。国際会議でもCD-ROMやUSBメモリでProceedingsを受け取ることが多くなりました。
事実上の標準となっているPDFですが、原稿執筆者のためのアクセシビリティに関する情報をまとめてみると
Microsoft Word 以外の手段で論文を作成する人向けのガイドラインが見あたりません。
Microsoft Word で「タグ付きPDF」を作る場合には、作業は「視覚的構造ではなく論理的構造を考慮したWord文書を作る」ところにかかっています。
Linux 環境で platex と dvipdfmx によって作成された日本語のPDFデータは、Windows 環境の Adobe Reader 9 で開いた感じでは2段組などの構造を反映できていないようです。
これまでWIT研究会では、視覚障害をお持ちの方のために「予稿のプレーンテキスト版」を著者の方に作っていただくことが一般的でした。最近は PDF の読み上げソフトウェアをお持ちである方が多いようですが、例えば2段組を正しく読み上げられない PDF データについては相当苦労されるのではないかと思います。
現実的には
- Microsoft Word で原稿をお作りになる場合は Adobe 社などのガイドラインに従っていただく
- LaTeX で原稿をお作りになる場合は、TeX ソースを元に別途テキスト版を提供していただく
ことになりそうです。こういった目的のために、例えば detex というツールは Linux では古くから使われています。
しかし、これでいいのだろうか、と疑問に思います。そもそもLaTeX の方が「陽に構造を記述するマークアップ言語」のはずだから。
もしこの問題に取り組んでおられるプロジェクトなどをご存じでしたら、ご一報いただければ嬉しいです。
もうひとつ確認してみたいのは OpenOffice.org の PDF 出力機能です。現在 OpenOffice 用に論文原稿のテンプレートを提供する学会等は聞いたことがありません。しかし、OpenOffice には標準で PDF 出力機能が備わっているので、もし「タグ付きPDF」をきちんと生成できているのなら「アクセシブルな学会予稿作成手段」として推奨できる、という日が来るかも知れません。
あるいは、こうした場面でも「マルチメディアDAISY」が役立つ日が来るのかも知れません。
- 追記(2009-10-04) : detex は Ubuntu Linux 9.04 の場合は texlive-extra-utils に入っています。