吉野の世界遺産

夏休みをいただいて旅行をしてきました。奈良県の奈良市、桜井市、明日香村、吉野町のお寺や神社を訪ねました。電車とバスの旅です。

ひとつだけ強く感じたことを書きます。

吉野山の旅館を出発して、吉野水分神社(よしのみくまりじんじゃ)に行きました。宿を出て急な上り坂を歩くこと数十分。バスも一日数本しかなく、車で登るにしても相当大変だと思われる場所です。

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吉野水分神社はユネスコの世界遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』の一部として登録されており、国宝と重要文化財のある神社です。

しかし、ガイドブックの写真からは想像できないくらい老朽化が進んでいると感じました。拝殿に展示された神輿には、壊れかかっているので触らないで、という趣旨の注意書きがありました。ユネスコの世界遺産登録証と思われる横文字の書類が無造作に拝殿の壁に貼られていました。

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桜のシーズンでないからでしょうが、訪れる人もまったくいない、静かな場所でした。楼門で受付の年老いた女性が一人で管理をされている様子です。

かろうじて鮮やかさを維持していた朱塗りの鳥居の前では、集落の住民の方々が座り込んで世間話をする、のどかな光景があり、その目の前を男の子が二人スケートボードで遊んでいました。

いくつものウェブサイトで訪れた方によって「思っていたよりも寂れていた」と報告されていますが、そんな生易しいことではない、という印象を受けました。

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屋根葺き替えへの寄付を募るパンフレットが置かれていました。あまりに心を動かされたので持ち帰ってきました。

(引用ここから)

本日は吉野山へのご来山、またその上千本の最上部に坐します当社へのご参拝、誠にありがとうございます。

当社現社殿は、四百年前豊臣秀頼公により再建され、特に本殿は主殿と脇の二殿とを一続きにした大変珍しくまた美しい桃山時代の代表的神社建築となっていますが、その檜皮葺の屋根は先の葺替より四十年余の時を経て、その腐みは著しく近年は毎年の小修理にて雨漏を防いでいます。

国の重要文化財の指定を受けており、葺替という事になりますと国等よりの補助も得られるかとは思いますが、何分にも当社の負担も相当額が予想されます。

しかし当社は交通の便も余り良くない為か参拝の方々も少なく、葺替費用の捻出に苦慮いたしております。

このままでは風化の途を辿るばかりとなり、広くご参拝の皆様方のご協賛をお願い致します次第です。

何卒この主旨をご理解頂き、ご協力下さいますようお願い申し上げます。

639-3115 奈良県吉野郡吉野町吉野山1612 吉野水分神社

ご寄付振り込み先 郵便振替 加入者名 吉野水分神社 口座番号 00990-2-259396

(引用ここまで)

私の主張は、皆様に寄付を呼びかけたい、ということではないのですが、私自身はささやかな金額の寄付をまじめに考えています。

それよりも、私が驚いたのは、多くの地域で「さらなる世界遺産への登録を実現したい」という活動が盛んに行われているなかで、こういう観光客の訪れにくい場所で、ひとたび世界遺産に登録された文化財が、その維持を一般人の寄付に頼らざるを得ないくらい苦しんでおられる、という実態でした。

同じく世界遺産である吉水神社(よしみずじんじゃ)も訪ねました。拝観料を払って見学もしました。

南北朝時代の後醍醐天皇の居所(いわば皇居)であり、源義経や豊臣秀吉にもゆかりの場所として、多くの文化財が所蔵・展示されていました。しかし建物や展示物の保存状態は「世界遺産にしては大雑把なのでは」と不安に感じました。

先日、ユネスコがドレスデンのエルベ渓谷を世界遺産リストから抹消した、というニュースを見ました。建設中の橋が文化的景観を損ねるとされたためで、世界遺産を維持することよりも住民の経済性・利便性が尊重された結果、とのことでした。

吉野の世界遺産はまったく別の問題ですが、適切な維持ができなくなれば、吉野水分神社もやがてリスト抹消の危機に遭遇するでしょう。

2年前に同じ『紀伊山地の霊場と参詣道』にある熊野古道を観光ツアーで訪ねたことがあります。ツアーの一部に組み込まれることの物足りなさ、味気なさをそのときは感じたのですが、適切に管理されて観光の対象となることで、多くの人に監視され、なんとか維持されているという見方もできます。

吉野山の史跡は同じ世界遺産の一部とは思えないくらい異なる状況に置かれています。桜の季節の観光客に依存する状況ではないかと想像できますが、一年を通して観光客の目に触れることで、自国の文化遺産の状況が常に監視されるのではないでしょうか。

文化財を維持する地域の体制や行政はどうなっているのか、世界遺産登録の活動が行われた時点で将来の維持管理についてどのような展望があったのか、いろいろ疑問に感じることはあります。

でも、まずは自分が「いつかまた吉野山を訪ねよう」と思うことにしました。そして、そのことを一人でも多くの方に伝えたいと思い、この記事を書いてみました。