「あの仕事はむかし誰々がやった仕事の真似だ」みたいな話はよく出てきます。あまり好きではないのですが、あえて私もそういうスタンスであの「ニコニコ動画」について考察してみることにしました。
1998年のはじめごろ、電話の自動応答サービスで音声を録音して、ウェブサーバからそれを聴取できる、というサービスを知り、そのころ私が主宰していたメーリングリストのメンバーたちと「どんな遊びに使えるのか」と試していました。その途中でこんなことに気づきました。
ある人によって録音された音声を別の人が再生しながら、それに「うん」「そうだね」などとコメントをする。そのやりとりを録音して、さらに別の人に聞いてもらう。そうすると、なんとなく「時間と空間を超えて会話が成り立った」ような感じがしたのです。
その「感じ」を追い求めて、私は「非同期音声会議」の研究・開発を始めました。
- 西本卓也, 新美康永: ”非同期型音声メッセージシステムの設計,” 電子情報通信学会 マルチメディア・仮想環境基礎研究会, MVE-97-98, pp.39-46, Feb 1998.映像情報メディア学会/計測自動制御学会と共催
- 幸英浩, 西本卓也, 新美康永: ”非同期型音声メッセージシステムの提案,” 情報処理学会音声言語情報処理 SLP-22-13, Jul 1998.
- 西本卓也, 幸英浩, 川原毅彦, 新美康永: ”非同期型バーチャル会議システム AVM,” インタラクション’99 論文集, IPSJ Symposium Series Vol.99, No.4, pp.157-158, Mar 1999.
- 西本卓也, 幸 英浩, 川原毅彦, 荒木雅弘, 新美康永: ”非同期型バーチャル会議システム AVM,” 電子情報通信学会総合大会, SD-4-9, Mar 2000.
- 西本 卓也, 幸 英浩, 川原 毅彦, 荒木 雅弘, 新美 康永: ”非同期型音声会議システムAVMの設計と評価,” 電子情報通信学会論文誌 D-II, Vol.J83-D-II, No.11, pp.2490-2497, Nov 2000.
- Takuya Nishimoto, Hidehiro Yuki, Takehiko Kawahara and Yasuhisa Niimi: ”An Asynchronous Virtual Meeting System for Bi-Directional Speech Dialog,” Eurospeech’99, Vol.6, pp.2471-2474, Sep 1999.
この仕事については続きがあり、特許(特願2000-37349 特開2001-230773 会議システム)も出願したのですが、審査請求に至りませんでした。システムも継続運用するには至りませんでした。
その後、やっぱり「ウェブのフォームを埋めたりメールで連絡するよりも音声の方が手っ取り早いなあ」と思うことはますます多くなる今日この頃。
そして、私が1998年に発表した「時間と空間を超える疑似リアルタイム性」は「ニコニコ動画」の字幕機能として世に受けいられていることを思い、今こそ「非同期通信+音声入力」で面白いことができる&便利なものが作れるのではないかなあ、と思っています。