Michael Curran さん来日対応の報告

2月28日から3月2日にかけて、NV Access 代表の Michael Curran さんの来日をサポートしてきました。
20150302095241写真は3月1日に行った打ち合わせの様子です。奥の方、写真では真ん中に座っているのが Mick さん。多くのかたにご参加、ご協力いただきました。
最終日に日本財団で行われた打ち合わせや講演会には私は同席しませんでしたが、その他のスケジュールで話し合ったことや聞いたことを、簡単にまとめます。
(1)NVDA本家版における日本語対応の課題
文字入力:

  • IMEから「文字アトリビュート」を取得する必要がある。
  • 現在はNVDA日本語版では inputCompositionUpdate で「変換中の文字列」「タブコード」「文字属性を’0′, ‘1’, ‘2’ のように表した文字列」を送るように C++ 側を拡張している。IMM32 と TSF それぞれ実装が必要で、TSF 側を実装したのは日本語版で 2014.3jp 以降。
  • ユーザーから見ると範囲(選択中のかな文字、選択中の文節)という概念になるが、実際には特定の属性の場所をスキャンすることで「範囲」を取得する。
  • 「はいりそうです」という入力を「入りそうです」「はい理想です」のように文節の区切り方を変えたり、注目する文節を切り替えたりしながら変換する例。
  • 最初にスペースキーが押されたときに、「はい理想です」という候補は(選択されている第一文節の)「はい」だけを通知するか、「はい」「理想です」の全体を通知するか。選択範囲が常に通知されるべきというNVDA全体の仕様からは、前者がよい?だが日本語版は現在は後者の実装になった。最初のスペースキーを押したときに妥当な結果が得られている可能性は高いので、文節の区切られ方よりも全体の文字説明を知ることのほうが効率的であるため、という考察。もしかすると「はい理想です」全体の詳細説明に続いて「はい」が選択中であることを通知するのがよいのでは。。
  • 入力コンポジション設定の「読み文字の通知」は「エイチ」「ハ」「イ」「アール」「リ」のようなローマ字入力のキーエコーを制御するべきではないか。現在はキーボード設定の「入力文字の読み上げ」で制御している。
  • Enter と Esc は日本語入力中とそれ以外の場合でまったく違う役割を持つので、この2つのキー入力の結果を分かりやすくする必要がある。現在の日本語版では IME の確定でない場合のEnterは「改行」と通知できる。また IME 作業中のEscは「クリア」と通知する。
  • 日本語版では、いくつかの処理のためにキー入力フックに手を入れて直前の状態を取得している。なるべくIMEからAPIで取得した情報(文字アトリビュート)を前提とした実装に置き換えるべき。

文字説明:

  • レビューカーソルやキャレットの左右移動で常に文字説明を行う「説明モード」はアジア言語圏の開発者が本家版に取り入れつつある。特定の言語で自動的に有効になる、という実装の見込み。
  • 日本語版では文字説明のときに「カタカナのピッチを下げる」「半角文字のピッチを上げる」という実装を追加している。
  • 辞書候補アイテムについては、特別な通知方法が必要。「カタカナ シ」「カタカナ オ」を「カタカナ シオ」のようにまとめる。iOS の VoiceOver でもこういう実装はすでにできている。
  • フォネティック読みや半角全角などの文字の種類を通知したい場合とそうでない場合がある。UnicodeData のような国際化の枠組みを使うと一般化できそう。

点字ディスプレイと日本語点字:

  • 日本のケージーエス社の点字ディスプレイを紹介。
  • BT接続なら追加でドライバーをインストールする必要はない。
  • NVDA用のドライバは本家版へのアドオンとして提供できる
  • メンテナーがいれば本家版に統合は可能
  • liblouis での日本語対応が困難であることについて。
  • 逆変換でドットからかな文字への変換には曖昧性はないはず。これができれば、点字ディスプレイからの文字入力はできるのでは。
  • 点字出力にフォーカスモードとレビューモードがある。フォーカスモードは出力が冗長で使いにくいという意見が日本にある。
  • NVDA コアでの数式(MathML)サポートが進んでいる。これにより、点字を適切に仮想バッファで処理する枠組みが整備される見込み。
  • 仮想バッファが点字を適切に処理できないため、点字メッセージ出力を使ったアプリや処理が必要。例えば仮名漢字変換候補を点字に出力するために「メッセージ表示待ち時間」を無効化するオプションを日本語版につけている。「待ち時間を負の値にする」という仕様なら本家版に取り入れられるかも知れない。
  • 日本語に通常の6点点字、漢点字、6点漢点字というシステムがあることの紹介。

(2)NV Access の状況

  • 日本財団、Google, Adobe からの支援、ユーザーの寄付。
  • Microsoft Office サポート、特にビジネスで使われる機能に注力して、学生や企業の利用が増加。寄付も増えた。
  • Web 標準への対応、WAI-ARIA と IE 対応
  • Skype 対応の改善
  • Google の支援。Webアプリケーションがどんどんアクセシブルに。YouTube でアクセシビリティ機能が紹介されている。現在は Firefox 推奨だが Chrome もこれからよくなるはず。
  • インドの Sapient 社がフルタイムの NVDA 開発者を雇用している。Excel 対応の改善、言語の自動認識、インド国内の様々な言語や文字への対応。NV Access とインドのチームは定期的に電話会議をしている。
  • ディストリビューション。ダウンロード数はバージョンごとに78,000件。ユーザ数は一日あたり21,000人。
  • 各種の会議やイベントへの参加
  • 企業向けの有償サポート
  • フィリピンの eyRead 社によるエンドユーザ向けサポート事業の支援
  • 教材を作成中
  • 国際アドバイザリ委員会を立ち上げ準備中(西本も参加予定)

日本からの質問とその回答:

  • タブレットについて。Windows アプリケーションの操作は一般的に複雑なので、キーボードがまったく不要になるほどタッチ操作を拡張することには懐疑的。
  • アプリケーション開発者に対してNVDAへの対応をどう伝えていくか。「ナレーターで使えるようにしてほしい」は悪くないメッセージ?
  • 日本におけるNVDAの位置づけ。国産スクリーンリーダーの普及率の高さや使いやすさは変わらない。新しいことにチャレンジできるのがNVDAのメリット?
  • NV Access はどこかに買収されたりしないのか? 現在の非営利法人の法的な位置づけの制約で、営利企業に買収される可能性はない。非営利団体に吸収される可能性は過去に検討されたことはある。
  • Microsoft には競争相手としての「ナレーター」の存在に期待する。ナレーターは点字をサポートしないので、視聴覚の重複障害に対応できない。

(3)NVDA 日本語チームの状況

  • 日本語版は本家版が出るごとにちゃんとリリースしてきた。
  • リリースごとのダウンロードは2000から3000。
  • 一日あたりのユーザは650(先週700を超えたばかり)。
  • コードサイニング証明書を独自に手配している。2014.4jp からはNVDA用音声合成エンジンを販売するナレッジクリエーション社が提供。
  • 用語の一貫性に配慮してきた。例えば「クイックナビゲーション」を「一文字ナビゲーション」に統一したり、「マウス」「マウスカーソル」「マウスポインタ」といった揺らぎを解消したりしてきた。教材を作る以前の作業として、開発者が行うべき「学習しやすさ」の改善と考える。
  • NVDA日本語版ガイドブックを執筆した。まる2日間の実習で使える内容になっている。ブラウズモードとオブジェクトナビゲーションを具体的に説明している。ユーザの環境や使っているアプリに依存しないように、なるべくNVDA自身の操作画面を使うように配慮している。また開発者の立場から技術的に正確な説明を心がけている。
  • NVDAワールドというイベントを毎年開催。展示ブースを作ってスポンサーを募った。
  • 企業の社会貢献活動、個人、ボランティア団体からの寄付を受けた。
  • ミートアップという新しいイベントの定期開催を始めた。

この他に、食事しながら雑談したことなどは、また機会があればご紹介します。


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