タグ: nvda

  • NVDAのこれから

    このエントリーは Webじゃないアクセシビリティ Advent Calendar 2018 の12日目の記事になります。
    NVDA日本語チーム の西本です。ふだんは広島県広島市にいます。オープンソースのスクリーンリーダー NVDA の日本語対応に関わりながら、NVDA 日本語版のリリースを続けています。ウェブアクセシビリティ基盤委員会 WAIC WG2 にも参加しています。
    今年は自分の会社 シュアルタ を設立しました。
    NVDA に関するコンサルティングや受託開発を、株式会社シュアルタでお受けするのでよろしくお願いします。
    後述するように NVDA と Windows アクセシビリティを取り巻く環境は2019年にも大きく変化します。
    視覚障害者の雇用などで NVDA を活用したい企業や団体などの法人に向けて、コンサルティング契約により NVDA の技術サポートを提供します。
    現在は申込受付の準備中です。
    詳細は info@shuaruta.com にお問い合わせください。

    Windows と Edge のこれから

    Webアクセシビリティ Advent Calendar 2018 の4日目として NVDAのブラウズモード という記事を書いて、「Microsoft が Chromium 技術で作ったデスクトップアプリ」の紹介をしたら、直後に Microsoft Edge が Chromium に移行するという発表がありました。
    momdoさんの日本語訳
    そこまで Chromium 大好きになってたのか。。
    Windows 10 がリリースされた直後に NVDA は Microsoft Edge をちゃんとサポートできていない、という宣言をしたのが懐かしいですね。
    最大の理由は Internet Explorer 11 がサポートしてきたアクセシビリティAPIを Edge が廃止して UI Automation という技術に移行してしまったから、なのですが、その後、長い間をかけて Microsoft と NV Access は Edge が NVDA でちゃんと動き、性能的にも問題がないようになった、というのが2017年の終わりごろでした。
    Chromium になった Edge は、もはや Chrome や VS Code や Skype のようにきちんと NVDA で操作できるようになるのだろうな、と思ったら、今度は Microsoft が Chromium の UI Automation 移行を進める、という話になっています。ということは Edge と Chrome にちゃんと対応できたばかりの NVDA は、また新たな作業が必要になるかも。。
    Windows スクリーンリーダーのワクワク・ドキドキ・ハラハラの日々はなかなか終わりそうにありません。

    NVDAのこれから

    Python 2 のサポートが2019年末に終了する、ということがわかっていたにも関わらず NVDA はいまだに Python 2.7 に依存しています。
    あれやこれやのアップデートに対応する作業に NVDA が追われることがなければ、もっと前向きな作業ができたのではないか、と言われそうですが、私は「もともとスクリーンリーダーというのはそういう運命のもの」だと思っています。
    つまり OS やアプリやコンテンツが「理想的に作られていない」ことで起きる不具合を「取り繕う」のが、スクリーンリーダーの(本質とまでは言わないけれど)「重要な価値」になってしまっています。
    なので「スクリーンリーダーの未来は?」と聞かれると、「スクリーンリーダーがなくなる」は言い過ぎとしても「スクリーンリーダーが単純になるのが理想の未来」と私は答えます。
    話を戻すと、NVDA は来年 2019.1 から 2019.4 までの4回のリリースを行うあいだに、互換性を切り捨てて大きく変わり、Python 3.7 あるいは Python 3.8 を積んでパワーアップした NVDA に生まれ変わります。
    ですが、そのパワーアップは、ユーザーには「何の得にもならない」と思われる可能性が高いです。
    Windows XP のサポートが終わったときにも、Firefox で WebVisum が動かなくなったときにも、ガラケーで Web サイトが閲覧できなくなったときにも、むかしの Visual Basic で書かれたアプリが動かなくなったときにも、同じような話がありました。
    今度は NVDA にその試練が降りかかる番ですね。。
    たぶん NVDA 2018.4 やその日本語版を、アップグレードしないで何年か使い続けたい、という要望が出るだろうなあと覚悟をしています。
    まあ、そういう使い方をする PC を割り切って温存するのは「アリ」かも知れません。。
    ユーザーが直接得をしない「新しい技術への移行」は、そうは言っても、標準化、ソフトウェア開発、セキュリティ、オープンソース、など多くの企業やコミュニティの活動が関わって作られた「大きな流れ」であり、逆らうことは「孤立」を意味します。
    そして「孤立」は「コンピューターとインターネットを学びたい、楽しみたい、活用したい」というスクリーンリーダー利用者には「残念な」選択だと思います。
    実はまだ NVDA コミュニティは NVDA を Python 3 に移行させるための技術的課題を完全にはクリアできていません。
    私の手元で動いている Python 3.7.1 版 NVDA は、今日やっとフォーカスハイライトが動いたところですが、まだ重要な機能がボロボロと欠けている状態です。
    大丈夫なのか、ほんとにやれるのかよ、と心配しています。
    来年は NVDA 日本語版よりも、まず本家 NVDA コミュニティのチャレンジを支えたい、と思っています。

    NVDA 日本語アルファ版の新しい仕様

    ここからはメーリングリストに投稿した内容です。
    現在 NVDA 2018.4 のリリース候補版が出ていて、NVDA 日本語ベータ版 nvda_2018.4jp-beta-181210j はその変更が反映された、事実上の日本語リリース候補版になっています。
    来週中に 2018.4jp の正式版もリリースできると思います。
    本家は NVDA 2019.1 に向けた作業を進めており、日本語アルファ版では 2019.1 に向けた変更をテストしています。
    最新の日本語アルファ版で、NVDA のアドオンについて大きな変更があるので、お知らせしておきます。
    以下の説明を読んで、不都合と思う場合は、前もってリリース版やベータ版に移行することをお勧めします。
    2019.1 以降の NVDA は、原則として、アドオン開発者によって互換性が確認されたアドオンだけをインストールできます。
    アドオン開発者は、互換性を確認していることを知らせるために、アドオンを作り直して公開する必要があります。
    先日リリースした focusHighlight 5.4 ではこの問題を修正しています。
    NVDA 2019.1 系の日本語アルファ版をインストールするときに、従来のアドオンがインストールされていると、
    「アドオンの互換性について了解しました」
    というボタンが表示される場合があります。
    ですが、そのボタンを押してインストールを実行するだけだと、互換性のないアドオンはすべて無効化されてしまいます。
    インストールを実行する前に「アドオンの互換性の確認」というボタンからダイアログを開き、それぞれのアドオンについて「有効にする」のチェックボックスをチェックすれば、従来のアドオンを使い続けることができます。
    この作業は、すべてのアドオンについて必要です。
    (NVDA をインストールし直すたびに必要かどうかは再調査中です)
    アドオンをたくさんインストールしている場合や、頻繁に NVDA 日本語アルファ版を更新している人には、かなり面倒ではないかと思います。
    場合によってはベータ版や安定版に切り替えたほうがよい、というのはそういう理由です。
    この数日、本家では、この仕組みのリリースで大きな混乱がありましたが、メーリングリストなどの議論を読んでいるかぎりでは、アドオンの互換性チェックを見直すつもりはなさそうです。
    NVDA が依存している Python を2019年末までに 2 から 3 に切り替えて、そのほかの NVDA の内部の改良を進めるために、アドオン開発者に対応をしてもらう必要があり、その準備としてこの機能が必要だと考えられているためです。
    NVDA 日本語版についても、こういう仕組みになったことを早く知っていただこうと考えています。
    インストール時のアドオンの操作についてのメッセージは、日本語アルファ版では日本語に翻訳しました。
    通常よりも早いタイミングで翻訳作業をしたので、不完全な部分があるかも知れません。
    従来動いていたアドオンが「手動で有効化」すれば動くかどうかは、アドオンごとに状況が異なりますが、2019.1 で動いているとしても、アドオンそのものが更新されなければ、2019.4 や 2020.1 で動かない可能性が高いです。
    新しい日本語アルファ版を試してもらい、どのアドオンで不都合なことが起きるかを調べながら、NVDA 日本語チームの取り組むべきことを検討したいと思います。

    アドオン開発者のための補足

    アドオン開発者のための公式の説明は developerGuide に書かれています。
    https://github.com/nvaccess/nvda/blob/master/developerGuide.t2t
    具体的には manifest ファイルに

    minimumNVDAVersion = 2017.4
    lastTestedNVDAVersion = 2018.3
    

    のように記載します。
    前者を「最小要件の NVDA バージョン」
    後者を「動作確認済みの NVDA バージョン」
    と日本語では表記しています。
    未来のバージョン番号を 2019.2 のように書いてもエラーにはなりません。
    (が、最新のアルファ版のバージョンにしておくべきという本家のMLでの議論あり)
    2019.1 と書くと本家版 2019.1 とも互換性があり、NVDA 日本語版 2019.1jp とも互換性がある、と解釈される見込みです。
    (日本語版でしか動かない、みたいなチェックは想定していません)
    本家のコミュニティで公開されているアドオンのテンプレート
    https://github.com/nvdaaddons/AddonTemplate
    こちらには
    updateChannel
    という項目もありますが、これは本家の addonUpdater で使われる項目で、不要な場合は None にしておきます。
    focusHighlight の buildVars.py も紹介しておきます。
    https://github.com/nvdajp/focusHighlight/blob/master/buildVars.py

    NVDAとアドオン開発者のための補足の補足

    ユーザーには何の役にも立たないように見えるであろう「NVDA の Python 3 移行」ですが、NVDA の現在と未来の開発者が幸せになれる、というメリットが、めぐりめぐって NVDA のユーザーを幸せにする、という展望があります。
    例えば、いままで NVDA が日本語環境でうまく動いていない不具合の多くは「Windows で日本語の文字コードが使われている場合だけで起きる問題」の見落としでした。
    Python 3 への移行で、そのような不具合が起こりにくくなる、と私は期待しています。

    おまけ:今年出演したポッドキャスト(再掲)

    サイトワールド2018特集 第6回 NVDA日本語チーム(日本視覚障害者ICTネットワーク JBICT ポッドキャスト)
    AccSell ポッドキャスト第140回: 「こういうもの俺自分で作らなくて良い時代になったんだ」
    わしポ 9: Kinsai PyCon mini Hiroshima (nishimotz)

  • NVDAのブラウズモード

    このエントリーは Webアクセシビリティ Advent Calendar 2018 の4日目の記事になります。
    NVDA日本語チーム の西本です。ふだんは広島県広島市にいます。オープンソースのスクリーンリーダー NVDA の日本語対応に関わりながら、NVDA 日本語版のリリースを続けています。ウェブアクセシビリティ基盤委員会 WAIC WG2 にも参加しています。
    今年は自分の会社 シュアルタ を設立しました。以前から NVDA に関わる研究や調査・開発にフリーランスの立場で関わっていましたが、今後は NVDA に関するコンサルティングや受託開発を、株式会社シュアルタでお受けするのでよろしくお願いします。

    NVDAのブラウズモード

    ブラウズモードさえなければ NVDA の操作は基本的に Windows の操作です。Windows やWebブラウザに備わっている機能の不足を補っているのがNVDAの「ブラウズモード」です。
    一方でブラウズモードが理解できないと「Windows がおかしくなった」ようにさえ思えます。
    NVDA のブラウズモードについては、講習会用の教材として(図がなくて申し訳ないですが)「NVDA日本語版ガイドブック」を公開しています。
    ブラウズモードの理解に「フォーカスハイライト」アドオンが役立つという話は2016年の記事に書きました。
    今年「アクセシビリティの祭典」にあわせて作った「NVDAチートシート」も「ブラウズモードの仕様をいかに可視化するか」が大きな目的でした。

    NVDAチートシートの一部

    11月にサイトワールド2018で開催した「NVDA体験会」でも、ブラウズモードの説明のセッションを担当しました。そのときに、他のスタッフから「最近の Skype は NVDA のブラウズモードで操作すると便利だ」と教えてもらいました。
    ご存知のとおり、最近はデスクトップアプリを Web 技術(いわゆる Electron )で開発することが増えています。
    NVDA では「ブラウズモードは Web コンテンツだけではなく PDF や HTML メールや電子書籍なども対象にしていて、それらをできるだけ一貫性のある方法で操作できる」ことを目指しています。
    ここでは「Webアクセシビリティ」とはちょっと離れてしまいますが、ブラウズモードで覗いてみるとちょっと興味深いアプリを2つ紹介します。

    Visual Studio Code 1.29.1

    最初は Visual Studio Code です。
    Visual Studio Code
    Electron が使われていること、オープンソースで開発されていること、などが知られています。また、アクセシビリティに配慮されており、NVDA に対応しています。スクリーンリーダーで使いこなすのはなかなか大変と思いますが、まあ私も使いこなせてるとは言えませんね。。
    VS Code には「スクリーンリーダー互換モード」のようなスイッチがあります。これが有効になっていないと、テキストエディタの行単位の読み上げがあまりちゃんと動きません。モードが自動切り替えに設定されている場合は、NVDAが動いているかどうかを判断して、モードを切り替えますか?みたいに聞いてきたりします。
    スクリーンリーダー互換モードをずっと有効にしていると、行の折り返し表示が期待通りに機能しません。どうやら、論理行と物理行を一致させることを前提にスクリーンリーダー対応を実現しているようです。
    さて、その設定ですが、Settings の画面の中にコンボボックスがあります。
    フォーカスハイライトが赤くなるのは、ブラウズモードだからですね。。
    Visual Studio Code の「アクセシビリティ サポート」設定
    ブラウズモードなら「要素リスト」が使えるはずなので NVDA+F7 を押してみます。フォームフィールドの表示に切り替えると、
    Editor Accessibility Support コンボボックス・折りたたみ on
    のように、この設定項目が現れます。
    Visual Studio Code の設定画面で NVDA の「要素リスト」ダイアログから「フォームフィールド」を表示
    この要素リストで「ランドマーク」に切り替えると、「コンテンツ情報」「ナビゲーション」「メイン」のランドマークがあり、メインの中にさらに「Settings フォーム」という項目も見つかります。ランドマークの「フォーム」は解説に書いてあるけど、あまり見たことなかったです。。
    Visual Studio Code の設定画面で NVDA の「要素リスト」ダイアログから「ランドマーク」を表示
    VS Code はフォルダーを開くとその中のファイルを複数開いて切り替えながら編集ができます。そのファイルを探したり切り替えたりする画面要素はテキストを編集する部分の左側にあり、「エクスプローラー」という名前になっていて、ツリービューのような表示になっています。その状態で「要素リスト」を開くと、下記のような画面になります。
    種別「見出し」では「開いているエディタ」「フォルダ名(その内容を表示できる)」「アウトライン(プログラミング言語のクラスやメソッドや変数の定義などをツリー表示できる)」の項目が見つかります。ということは、見出しジャンプできたり、要素リストから移動できるわけですね。。
    Visual Studio Code のファイルエクスプローラーで NVDA の「要素リスト」ダイアログから「見出し」を表示

    Skype 8.34.0.78

    Skype for Windows も最近のバージョンは Electron で作られています
    たしかに NVDA+スペース でブラウズモードとフォーカスモードに切り替わるし、テキスト入力のところに移動すると「ガシャ」と音がして、自動的にフォーカスモードに切り替わったりします。

    Skypeチャット画面 全体がフォーカスハイライトの赤い枠で囲まれている

    要素リストで「見出し」を確認すると、チャット画面の日付が見出しになっていました。この例では「2017年5月7日」と「今日」という2つの見出しがあります。

    要素リスト「見出し」

    ブラウズモードで H と Shift+H を押すと、日付の区切り線のようなところにジャンプできます。
    以下は「2017年5月7日」に移動したところ。

    Skypeチャット画面 日付2017年5月7日のところがフォーカスハイライトの赤い枠で囲まれている

    以下は「今日」に移動したところ。

    Skypeチャット画面 今日のところがフォーカスハイライトの赤い枠で囲まれている

    Web コンテンツであれば「見出し」にはレベルがあって、レベル2の見出しには数字 2 を押すとジャンプできるのですが、この Skype チャットの日付は「レベル1から6」のどれにも当てはまらない「レベルなしの見出し」でした。いずれ詳しく調べてみたいと思います。興味深いですね。。
    ブラウズモードで E を押すと「エディットフィールドにジャンプ」ができるので、この Skype のチャット画面では、チャット入力コントロール(ここに入力と書かれている場所)にジャンプできます。

    Skypeチャット画面 ここに入力という箇所がフォーカスハイライトの赤い枠で囲まれている

    文字を実際に入力するためにはフォーカスモードに戻す必要があります。

    Skypeチャット画面 ここに入力という箇所がフォーカスハイライトの青い点線の枠で囲まれている

    上下の矢印キーでエディットに移動するとフォーカスモードに自動的に切り替わるのですが、1文字ナビゲーションの E で移動すると、ブラウズモードのままになりますね。。
    以上、ブラウズモードで Web コンテンツっぽい操作ができるアプリの実例を紹介しました。
    仕事では iOS で WebView を使うアプリの開発もするのですが「Web 技術をアクセシブルに使う」と VoiceOver でだいたいちゃんと使えます。
    見えないところも、きれいに正しく作れたらいいですよね。。
    アプリやコンテンツのアクセシビリティ検証に NVDA を使ってくださる皆様、イベントのサポートや寄付などのご支援をしてくださる皆様、ありがとうございます。これからも NVDA 日本語チームをよろしくお願いします。

    おまけ:今年出演したポッドキャスト

    サイトワールド2018特集 第6回 NVDA日本語チーム(日本視覚障害者ICTネットワーク JBICT ポッドキャスト)
    AccSell ポッドキャスト第140回: 「こういうもの俺自分で作らなくて良い時代になったんだ」
    わしポ 9: Kinsai PyCon mini Hiroshima (nishimotz)

  • PyCon mini Hiroshima 2018 終了

    PyCon mini Hiroshima 2018 が無事に終了しました。
    有料イベントになったにも関わらず、60人以上の人にご参加いただくことができました。
    私は実行委員長として、また企業・団体パトロンの株式会社シュアルタとして、そして「舞え!ひろしま Kaggler」講演者として、あわただしい一日でした。

    まだまだ記録とか精算とか報告作成とかやっている途中です。
    Togetter まとめ
    いつものように最後にスタッフみんなでご挨拶した写真。


    まだ広島で Python 流行ってないの?と言わせてるみたいなスローガンでしたが、今回は「広島で流行らせよう!」というテーマをすこしずつ実践できていけそうな、そんな一日でした。
    今後ともよろしくお願いします。