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  • 神戸アイライト協会見学会

    2008年5月31日(土)福祉情報工学研究会(電子情報通信学会SIG-WIT)では、NPO法人・神戸アイライト協会(兵庫県神戸市中央区)の視覚障害者通所施設およびIT支援施設の見学会を行いました。

    参加者は私を含めて5名。理事長の森さまをはじめ、多くの方に快くご対応いただいたことを感謝します。私は1月の島根での見学会に続いて、ここでも様々なことを学ばせていただき、たいへん貴重な時間になりました。

    以下、忘れないうちに私のメモを書き起こしてみました(文責は私にあります。誤りやお気づきの点がありましたらお知らせください):

    • この建物(中山記念会館)は1年前に改装された、視覚障害関連の6つの団体(NPO法人およびボランティア団体)の活動拠点「神戸ライトセンター」の建物。
    • 中山記念会館は「財団法人 中山視覚障害者福祉財団」の財団事務所でもある。
    • 明日は「第2回 神戸ライトセンターまつり」で多くの団体の関係者が集まるとのこと。

    神戸アイライト協会について。

    • 神戸アイライト協会さんは歩行訓練などの通所施設(アイライト新神戸)と、視覚障害者のPC利用支援施設「アイライトITファーム」を運営。他にも訪問サポート、社会参加支援、講習会の指導、イベント、ガイドボランティア養成など、さまざまな活動。
    • 特徴は「地域に密着した活動」「行政や特別支援学校では対応できない曖昧な(漠然とした?複雑な?)要求や悩みに関する相談や対応」。昨年度は500件の相談に対応。
    • 近いうちに仕事を作って就労支援をしたい。

    中山記念会館の各フロアの見学。

    • 「アイライトITファーム」では主に音声でのPC利用を指導。数人が個人指導を受けておられた。レベルはさまざま。講習会も実施している。
    • 視覚障害者のための便利グッズを紹介するコーナー。音声読み上げの時計や電卓、弱視者向けの文房具や調理器具、さまざまな白杖の見本も。
    • 音楽や手工芸などの教室。拡大ルーペでビーズ作品作りに取り組んでいる。晴眼者より器用な方もおられる、とのこと。
    • 神戸アイライト協会さん以外の、音訳ボランティア、点訳ボランティア、伴走者などの団体の活動場所も。さまざまな大きさの会議室、集会スペース、対面相談室など。

    質疑応答、意見交換など。

    • 理事長の森さんは目の病気になったことがきっかけで盲学校勤務。歩行訓練士の資格取得中に、日本ライトハウス(大阪)や京都ライトハウスのような施設がなく、訪問事業が神戸にないことを知る。1999年、自身で設立されることを決意。2年目からPC支援にも取り組む。
    • 視覚障害者のニーズは多岐にわたる。多様なニーズに1つの施設で対応できれば当事者に便利である。そのような考えから、中山財団と協力して神戸ライトセンターを開設。
    • この施設ができて、相談や歩行訓練のニーズは増えたが体制が追いつかない。スタッフを増やす努力をしている。
    • 研究者・技術者との連携は? 試作されたソフトウェアのモニター依頼はある。協力はできる。可能ならばモニター協力費など金銭的支援があれば、ありがたい。
    • 視覚障害者の外出支援をする地域組織。全国ネットワークがある。電子メールで申し込みができる。

    「アイライトITファーム」担当の方に同席していただき、視覚障害者のPC利用について伺う。

    • PCを購入した後で「最低限の設定」が自分でできなくて困る方が多い。3D視覚効果をオフにするなど。買ったあとで困ってやってくる方が多い。最低限のサポートをしてくれるお店で買うのがよい。
    • PCやソフトを購入する前に情報を得る場がない。
    • 企業で購入する場合は「助成を得ること」しか考えておらず、必要なものが足りない、ということも多い。例えばタイピング練習ソフトは視覚障害者には必須だが買われていない、など。
    • インターネット利用で最近お困りなのは画像認証。介助者が代行している。
    • PCがフリーズする頻度は昔も今もあまり変わらない。ただ諦めるのではなく、「開いているウィンドウの数だけでも読み上げられないか」など、何か情報を得るように指導している。
    • PC利用ニーズは多様。全盲でも写真を楽しむ方がおられる。名刺やはがきに写真を入れて印刷したい、など。プレゼン資料作成に使えるスクリーンリーダーは限られる。
    • 「ITファーム」では生活支援利用が中心なのでビジネス向けソフトの支援はあまり行われていない。
    • PCではないが、携帯電話(らくらくホン)の相談も時々ある。

    帰りに私は、

    • 「視覚障害被災者の10年 阪神・淡路大震災メモリアルイベントの記録」神戸アイライト協会・編(2005) ISBN4-86055-242-3

    を購入。私は先ほどまで東京に戻る新幹線の中で、この本を読んでいました。

    ゆうべメリケンパークで見た神戸港の震災の傷跡を思い出しました。

    私は1996年に京都に移ってから「1995年の震災をきっかけに人生が変わった」という方と何人も出会いました。そんな出会いがなかったら、私は「ウチコミくん」を開発することもなく、いまこうやって障害者支援に関わっていなかったと思います。

    これまでにも何度か神戸を訪れたことはあるのですが、今回やっと、私はこの街のことをまともに知る機会を得た、そんな気がします。

    神戸の街を少しだけ歩いていて、高層マンションやショッピングモールがあちこちに建ち並ぶ街を「きれいだなあ」「きれいになったんだなあ」と思いました。

    しかし森さんにその私の感想を言うと、森さんは「昔は高い建物がなかったから、今の方が汚くなったと思います」とおっしゃいました。

    その「高層ビルがあることを汚いと感じる感覚」にも、私には頷けるところがあります。

    偶然なのか、運命なのか、7月のWIT研究会は、やはり大きな地震を経験した「新潟」での開催です。

    ■追記(2008-06-02) 写真を下記「はてなフォトライフ」に登録しました。

    ■追記(2008-06-04) 神戸アイライト協会さまから御教示いただき、一部の記述を訂正しました。

  • 第42回WIT研究会

    明日から神戸大学で第42回福祉情報工学研究会(共催:音声研究会)です。

    あわせて、5月31日(土)11:00~12:30 に神戸アイライト協会様の視覚障害者通所施設およびIT支援施設の見学会を行います。視覚障害者支援の現状についてお話を伺う貴重な機会ですので奮ってご参加ください。

  • アクセシビリティのアンチパターン

    2月27日、NHK放送技術研究所で行われた「視覚障害者向けマルチメディアブラウジング技術の開発」というシンポジウムに参加しました。ディジタル放送のバリアフリー研究開発についての情報通信研究機構の委託研究の成果発表でした。

    視覚障害を持つ方の多くがテレビを情報源にしている、という現状があるのですが、ディジタルテレビ放送のデータ放送にはスクリーンリーダーのような技術が存在しません。このような現状を解決するために、音声ブラウザの技術、点字ディスプレイや触覚ディスプレイなどの技術を応用した興味深い技術報告とデモンストレーションが行われました。

    そのことはとても意義のあることだと思ったのですが、一方で私が感じたのは、そもそもディジタル放送という技術をもっとユニバーサルデザインで設計できなかったのだろうか、放送情報の作り手がもっとアクセシビリティに配慮することができないのだろうか、ということです。

    データ放送に使われるBMLはDynamic HTMLの技術がベースなのですが、ECMAScriptで動的に制御することに特化していて、pとdivとobjectしかタグがないのだそうです。意味的な構造を記述するタグがないので、たとえ情報を取り出せたとしても、音声や展示で提示するためのナビゲーション操作ができません。

    だから、放送局でBMLの画面を作った後で、それに合わせて意味的情報を取り出すための「後処理用データ」を作って、受信側に送る、という仕組みが開発されています。XPathなどを使ってテキストエレメントを取り出して、視覚的構造から意味的構造をごりごり抽出するわけです。

    どうにもスマートじゃないと思うのですが、放送の現場で最初から「意味的構造でマークアップされたデータを作成する」というのは難しいのだそうです。

    新しい技術が開発されるたびに「アクセシビリティのアンチパターン」というべきものが繰り返されているように感じます。

    そんなに歴史の古い技術でもないはずのディジタルテレビが、こんな方法でしかアクセシビリティを確保できないのは、技術よりも思想に問題があったとしか言いようがないように思います。

    セマンティクスを無視して低レベルのインタラクションを記述するような、スクリプト言語での制御に過度に依存するような、そんなマークアップ言語を設計してしまうと、ユニバーサルデザインが損なわれる。こういうことは、新しい技術を開発して標準化する人が、教訓として持つべきではないでしょうか。

    そういえばテレビもラジオも、もともと受信機を自作できるくらいオープンなインフラだった、ということをふっと思い出しました。

    いまやテレビは、データのコピーさえ自由にできないインフラになっています。ブラックボックスをアクセシブルにすることがいかに難しいか。。。

    ラジオが相変わらず、受信機を自作できるくらいオープンなインフラであることは、いいことだなあ、と思ったりもします。