投稿者: nishimotz

  • Panasonic と Vine

    2008年1月に Panasonic Let’s Note でひどい目にあった。

    乱暴に言えば、Windows Update がパソコンを壊したのだ。日本でしか売れていないマイナー機種は、もはや Microsoft で動作検証されてすらいない、という事実に気づくきっかけになった。

    長年使い続けた Let’s Note が、気づいたら「高品質の代表」ではなくなっていたことに愕然とした。「グローバルでない製品を使うのはリスク」という認識を持つようになった。

    2008年4月に Lenovo ThinkPad X300 に乗り換えた。(高かったが。。)中国メーカーに事業譲渡されて劣化したという意見もあるが、それを言うなら Apple 製品も製造は中国や台湾だ。本当はトラックポイントがお気に入りだったし、PgUp PgDn のあるキーボードが使いたかったので、乗り換えて満足した。

    もちろん高品質と手放しで喜べたわけではなく、まず Windows XP にダウングレードしたあと、Muteボタンがうまく動かなくて苦労した。調べたらウイルスバスターとの互換性問題だった。(ウイルスバスターがガラパゴスだった)試したら Microsoft OneCare がよかったので、ウイルス対策ソフトの乗り換えを行った。(販売終了になってしまったのが残念だが)

    今年の夏ごろから、バッテリーの故障とキーボードの故障に相次いで見舞われた。しかし、Lenovo は部品を注文して自分で取り替えればたいていのことはできるので、あまり悩むこともなく、時間は無駄にならなかった。

    さすがに Let’s Note より重たいけれど、慣れてしまった。内蔵 DVD ドライブを使う機会がほとんどないので、セカンドバッテリに換装した。

    SSD 64GB はちょっと物足りないが、逆に大事なデータをこまめにバックアップする習慣がついたから、必ずしも悪いとは言えない。それでも VMWare で Ubuntu を使うには少し足りないが。。。1440×900 の画面が使えるのはありがたい。

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    私が Let’s Note T1 に飛びついたのは 2003 年ごろで、当時は周りの人はみんなバイオノート派だったので珍しがられた。

    いまや Let’s Note でない人を探す方が難しいが、Let’s Note 派の人が「原因不明のトラブル」に見舞われている率が去年くらいから高まっているように感じる。

    私の職場でも「異常な温度上昇」「電源トラブル」などなど。

    先日は私が座長をしていた学会のセッションで、自分の発表を始めようとしてプロジェクターにつないだ人が、突然 Let’s Note の電源が入らなくなった。おかげで10分くらい時間が無駄になった。けっきょくバッテリーを外して付け直したら復旧したのだが。

    Twitter の kazuyo_k さんもデバイスドライバーの相性でそうとうお困りだった様子だが、私が去年1月に経験したトラブルのことを思い出すと、最近の Panasonic にいかにもありそうなトラブル、という気がする。

    こうしてグローバルでない商品はいつのまにか腐っていくのだな、という実感を持っている。

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    すこし前に、ある人にGalateaの動作確認を頼まれてVine Linux 5の64bit版を仕方なく入れてみた。

    そもそも1年前までGalateaはVine Linuxを動作対象にしていた。自分も日常的にVineを使っていた。Vineは「日本語環境が充実している」のが売りだった。日本語フォント、かな漢字変換システム、日本語の入力がちゃんとできる Emacs エディタや、日本語の論文作成ができるようにチューニングされた LaTeX などなど。

    1.x の時代(10年前だ)には Linux はカーネルが 1.0 系だった。そもそも Linux そのものが「枯れていなかった」。NFSサーバを運用してみたらファイルがぶっ壊れて、仕方なく Solaris に戻したこともあった。サーバとして、デスクトップ環境として、まともに使えるようになったのは Vine 2.5 あたりからだった。商用版が発売され、日本ではそれなりに普及していたはずだ。

    Vine 2.x, 3.x, 4.x とずっと使い続けた感想として、明らかにこの数年、Vineは「腐って」きた。3.x の時代には「日本語のフォントが間違っている」ことがあった(教授の名前の1文字だったので、とても困った)。開発者グループに連絡をしたがすぐには直してもらえず、仕方なく某商用 TrueType フォントに差し替えて使った。

    昨年6月にはサーバの更新で Vine 4.2 を使おうとして、NIS サーバの設定ファイルにバグを見つけた。そのとき気づいた。「もう誰も Vine なんて使ってないんじゃないか」と。

    ちょうど Ubuntu Linux が台頭しはじめていた。あちこちで「Ubuntu があれば Windows はいらない」と言われ始めるほど、高い完成度を誇り始めていた。

    Ubuntuでは国際化されたバージョンに「日本特有のパッケージを追加して使う」という考え方になっている。コアの部分は世界中で使われ、不具合がないようにグローバルに検証されているのだ。

    Linux カーネルの更新に1年に2回追従していた Ubuntu と異なり、Vine は(もともと「保守的」な開発方針であったため)カーネルが古すぎて新しいハードウェアで動かない、ということが当たり前だった。自分で差し替えることはできたが「だれも使っていない使い方」を試行錯誤するのは苦痛だった。

    GalateaはターゲットをUbuntuに切り替えた。自分の(職場の)Linux環境も1年前からUbuntuへの移行を進めた。腐ったLinuxと心中することを回避できた。

    2年以上かかって先日やっと Vine 5 がリリースされた。頼まれて仕方なくいじってみたが、駄目だ、と思った。Vine で XXX が動かない、と聞かれても、やっぱり「それは Vine が腐っているからだ」と答えるしかない。

    ちなみに32bit版も試してみたら、多少まともだった。だが、ダウンロードのデフォルト選択肢が64bit版だったことは理解に苦しむ。

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    私にいろいろ相談してくださった方は、けっきょく Let’s Note で Vine 5 のオーディオデバイスをどうしても認識できない、とのことで、今年は Galatea for Linux の演習を断念されたとのこと。私に言わせれば「最悪の組み合わせ」だ。。

    「グローバルでない製品を使うのはリスク」というのはハードウェアにもソフトウェアにも当てはまりそうだ。

    • 追記(2009-10-01): 上記は私の経験に基づく仮説であり、特定の製品の開発プロセスについては推測に過ぎません。特定の製品が頻繁に故障しているように見えるのは、特定の製品のユーザが圧倒的に多いことによるバイアスかも知れません。また、この記事に関してもう一つお伝えしたいことは「評判は頻繁に変化しうる」ということです。ソフトウェアもハードウェアも現在ちょうど新しいバージョンに変わるタイミングですので、いろいろな方の評価を御確認の上、ご自身でご判断ください。本記事の誤りをご指摘いただいた場合は、お詫びして修正をするつもりですが、本記事をお読みになったことで不利益が生じたとしても責任は負いかねます。御了承ください。
  • HCGシンポジウム準備状況

    私は電子情報通信学会・福祉情報工学研究会(WIT)の副委員長を務めており、障害をお持ちの方を支援する技術に関する研究会活動を、当事者の方に参加していただきながら続けております。

    私たちのWebサイトではこういった活動のノウハウも掲載しています:

    そして私は現在WITからのリエゾン委員として、2009年12月10日(木)~12月12日(土)に札幌コンベンションセンター (札幌市) で開催される「2009年度HCGシンポジウム」のプログラム委員および情報保障を担当しています。

    昨日プログラム編成会議が行われ、研究発表の時間帯がだいたい確定しました。視覚障害、聴覚障害、発達障害、Webアクセシビリティ、高齢者支援などに関する御発表が多数予定されています。その一方で、広く「ヒューマンコミュニケーション」に関する研究発表が一同に会する予定でもあります。非常に興味深い御議論や御交流が期待できます。また講演だけでなくインタラクティブ発表も予定されています。

    約80件の発表申込をいただきました。大変感謝しております。近々プログラムを発表し、参加募集を行い、情報保障の要望の受付を行います。

    詳細は WIT 研究会のサイト、HCGシンポジウムのサイト、そしてこのブログやTwitter (@nishimotz) などでも随時お知らせする予定です。

    特に「情報保障の都合に合わせた運営」を最初から前提にしてしまうのは好ましくありません。できるだけ多くの方に楽しんで参加していただきたいと思っています。

    とはいえ、パラレルセッションやインタラクティブ発表における情報保障については「未知との遭遇」です。インタラクティブ発表については「一人30秒の概要発表」も予定されています。御要望には可能な限り対応したいのですが、幅広く皆様からお知恵をお借りすることもあると思います。

    プログラム作成において以下のようなことを配慮しています。

    • できるだけ Room A に福祉情報関連の発表が集まるようにして、特に、聴覚障害はひとつのセッションにまとめました。
    • WEIMS2009 http://www.mrit.kyushu-u.ac.jp/weims2009/ との日程調整の御要望をいただいたので、WITからの申込という属性がついている発表は、3日目を避けていただきました。
    • 日程については発表を申込された方の個別の要望も基本的にお受けしています。
    • 聴覚障害関係のインタラクティブ発表が複数あります。できるだけ近づけて配置していただくように、配慮をお願いしました。(現時点で発表者の方はみなさま健聴者と伺っています)
    • 車椅子でのインタラクティブ発表を予定しておられる方について、場所の配慮をお願いしています。

    現在のところ下記の方針を考えております。

    情報保障を希望される方への対応方針:

    • なるべく具体的に要望を受け付ける=「どの発表について」「手話と要約筆記のどちらを」希望されるのか(両方、でも構いません)
    • 招待講演や懇親会についても、要望を伺い「事前の要望があれば対応します」と宣言させていただく(通訳者の方の拘束時間は事前に確定する)
    • どういうやり方で情報保障を提供するか、希望された人となるべく密に連絡を取りながら準備を進める(特にインタラクティブ発表についてはWITでは未経験。PC要約筆記が実施できない、などの制約がある)
    • 万が一パラレルセッションの両方で要望が発生した場合は、プログラム委員会にて相談させていただく(情報保障担当者を複数グループ手配することは困難が予想される)

    発表をされる方への対応方針:

    • 実際に要望があった発表については、発表者に事前に連絡し、協力を依頼する。=通訳者に対する事前の情報提供などを協力していただく必要がある

    現在、手話通訳や要約筆記の手配や申込締切などの詳細を検討中です。また、点字版の資料についても準備をする予定です。予稿集は電子データでの出版を予定しています。皆様のご参加をお待ちしております。

  • オープンソースと経済活動

    擬人化音声対話エージェントツールキット Galatea Toolkit は、広く人間と機械の音声対話の技術を開発・普及するべく、以下の特長を持つ技術として開発されました。

    • 人間の顔と表情を持ち、音声で対話するエージェントを作成できる
    • 顔、声、音声合成テキスト、認識文法、対話の流れなどがカスタマイズ可能
    • 構成要素(音声認識、音声合成、顔画像合成など)を別々に利用できる
    • オープンソース、無償で利用でき、商用利用も可能

    Galatea Project では2000年~2002年度に情報処理技術振興協会(IPA)の支援 (2000, 2001年度 独創的情報技術育成事業、2002年度 重点領域情報技術開発事業) を受け、財団法人京都高度技術研究所 (ASTEM) とIPAの契約の元に、主に大学の十数名の研究者が協力して開発を行ないました。この成果は2003年に「IPAライセンス版(galatea-linux-ipa および galatea4win-ipa)」としてリリースされました。現在は sourceforge.jp にプロジェクトのサイトを開設しています。

    西本個人も関連する技術情報を提供しています。

    2003年11月から2009年3月まで、情報処理学会 音声言語情報処理(SLP)研究会のもとで音声対話技術コンソーシアム(ISTC) が活動を行い、このツールキットの改良を行いつつ、技術講習会などを行いました。この期間の成果は「IPAライセンス版のアップデート」という形でのリリースを予定しています。

    この活動にずっと関わってきた私は「オープンソースプロジェクトであることの意味」を改めて考え直しているところです。

    すでに商用の音声合成エンジンが複数存在します。一方で、商用のエンジンに依存せず行いたい研究開発や標準化検討などの活動は重要です。

    例えば、スクリーンリーダや音声ブラウザなどのアクセシビリティ支援技術は、そもそも市場が小さく、ビジネスになりにくい、だから、こうした技術に使われる音声合成エンジンが無償であることに意味がある、という意見も頻繁に伺います。

    一方で、ビジネスになるかどうかは「やり方次第」であり、既存のビジネスを破壊することが一方的な正義であってはいけない、という立場も納得できます。

    私はオープンソースを「オープンプロセス=開発プロセスをオープン化した結果として生じる成果」と捉えています。オープンソースの発展は、「インターネットの速度感」に「ソフトウェア開発の速度感」が追いついてきた過程だと思います。その意味で、例えばCVSからGITへとオープンソフト開発のモデルが進化したことを好ましく思います。

    また、いわゆるフリーソフトであることを保証するライセンスとは、利用、配付、改変に関する「コミュニケーションのコスト」を不要にするシステムと捉えています。

    オープンソースソフトウェアでビジネスを行っていただくことは有意義だと私は考えています。既存の市場の構造にとらわれない枠組みを実現することは、新しいビジネスモデルの創出につながると期待できるからです。

    例えば Galatea Toolkit は経済産業省の外郭団体であるIPAから支援を受けており、これは「いずれ経済活動に貢献せよ」という趣旨の支援であったと私は考えています。実際「IPAライセンス版」のツールキットは成果がどのように製品化されているか完全には把握できていませんが、「どこどこのなになには GalateaTalk の合成音声らしい」という話はときどき研究者同士で語られています。

    一方で、プロジェクトの目標が野心的であればあるほど、研究開発には時間がかかります。Galatea Toolkit が本来の目標を達成するためには、技術や世の中の動向を正しく把握しながら、「売り物になる技術」に向かって進化させていく必要があります。企業に取り組んでいただくにはリスクがあります。研究者が本務の合間に取り組む活動としても限界があります。

    この6年間はコンソーシアムという形で活動をさせていただきました。会員の方から多くの御意見を伺うことができ、有意義ではありました。しかし、一方で、コンソーシアムの外部の方から具体的な御要望や依頼をうけたときに、個別に対応させていたくための組織としては若干不適切のようにも感じました。

    例えば、コンソーシアムが開発に関わり、会員向けに配付しているソフトウェアがあるとします。そしてこの技術をベースにある企業が独自に仕様を作って製品を開発したいとします。ベース技術の提供を受けるために会費を払っていただいてコンソーシアムの会員になっていただいたあとで、さらに「カスタマイズについて相談したい」という場合には「ベース技術に詳しい研究者・研究機関と個別に相談」ということになります。そのようなサービスを提供するにあたっては、守秘義務契約なども必要です。新たに技術者を探して作業を依頼する場合もあるでしょう。

    今後の Galatea Toolkit について、私の立場で、こういったサポートを提供する一つの選択肢は、共同研究だと考えています。不自然な枠組みという気もしますが、自分の就業規定と「利益相反」という問題をクリアするにはやむを得ません。

    具体的には、企業の方に、私の所属(東京大学)と共同研究契約を結んでいただき、私から情報提供や技術支援などのサービスを提供することが可能です。必要に応じて、さらに適切なパートナーをご紹介することもありえます。予算については(下限の規定がないので)柔軟に対応できると思います。ただし成果の帰属や公開等について、大学の基本方針に従った契約を結んでいただく必要があります。

    もう一つの可能性として、これまで述べてきた趣旨の活動を遂行する非営利組織の設立が考えられます。具体的には、以下のような考え方の組織です:

    • オープンソースソフトウェア開発に貢献する
    • 用途をなるべく限定せず、多様な応用に対応する技術を育成する
    • オープンソースソフトウェア技術によりビジネスや雇用を創出する
    • 技術の非専門家、ユーザの視点でサポートを行う
    • 秘密保持、知的財産権管理などを適切に行う
    • 商用ソフトウェアに関する既存のビジネスを破壊しない
    • 大学等の研究者にとって望ましい協力関係を構築する
    • 既存のプロジェクトとの活動の重複を避ける
    • 運営や活動方針などの情報を積極的に公開する
    • 自発的に(楽しく)活動する

    もう少し活動の内容を具体的に挙げてみます:

    • ソフトウェアの配付、カスタマイズ用データの提供
    • サポート、カスタマイズ、講習会などの業務
    • 技術情報の提供・執筆
    • 事業者、研究者、開発者などの仲介

    後者は最近読んだ藤井孝一さんの「週末起業」 (ちくま新書)からヒントを得ました。大学に所属して研究と教育以外のことをするのは「週末起業」に似ているように思えて、興味深く感じます。

    「ビジネスの手法で社会に貢献する方法」については、最近考え始めたばかりです。いろいろな立場の方の御意見を伺おうと思っています。既存の組織を活用させていただく場合にも、上記の考察を踏まえて検討をするつもりです。

    自分の関わってきた技術を形にすることについて、これからもいろいろ考えたいと思います。