投稿者: nishimotz

  • NVDA で Excel を使う

    この記事は Webじゃないアクセシビリティ Advent Calendar 2016 13日目の記事です。
    前日はFCSアプリが公開されました。:友加の日々の記録:So-netブログでした。
    オープンソースの Windows 用スクリーンリーダー NVDA の日本の開発者コミュニティ、NVDA日本語チームの西本です。

    NVDA 2016.4jp

    このアドベントカレンダーにエントリーした時には NVDA (本家版)の次のバージョン 2016.4 は string freeze (翻訳者向けに新機能の追加や英語のドキュメントの更新が停止された段階)に入っていました。
    予想では11月29日にリリース候補版(RC)が出て、12月6日に正式リリース、ただし、なにかの事情でRCが2回出ることになったら1週間遅れるだろうと思い、この日を登録しました。
    結果的に「なにかの事情でリリース候補が遅れる」に加えて「リリース候補が2回でる」ことになり、本日12月13日には 2016.4 RC2 が出ました。おそらく正式版は今週末か来週でしょう。
    本家の正式版が完成したらすぐに日本語版 2016.4jp をリリースする見込みです。
    NVDA日本語版 2016.4jp の新機能ですが、Microsoft Excel でセルの罫線の報告を実装しました。
    この機能は(本家版にも提案はしていますが)いまのところ日本語版限定の機能なので、「日本語設定」に罫線報告を「なし」にしたり、色だけを省略できるオプションがあります。
    NVDA の Excel 罫線対応を実装するために使ったワークシート
    このほかには「NVDAキー」の表記を「NVDA制御キー」に揃えるなどの用語の変更、修正を行っています。
    NVDA 日本語版の課題やご要望の報告には「新規チケット登録」をご利用ください。
    ご報告いただいた件について詳細の調査や本家への提案などをお手伝いいただける NVDA 日本語チームの仲間も募集しております。
    前置きが長くなりましたが、ここから本題です。

    NVDAのExcel関連機能の紹介

    NVDA ユーザーガイドには Excel 関連機能がまとめられています
    VIC 広島市視覚障害者情報支援センター(ボランティアサークル)の12月4日の例会で、この NVDA の Excel 関連機能を講習会形式で紹介してみました。
    教材として使ったファイルは docs.com に置きました
    マクロを有効にした、いわゆる xlsm ファイルでお配りしています。
    メッセージボックスを開く簡単な VBA マクロを使っています。
    マクロが無効のままだと最後の「フォームフィールド」の実習がうまく動きません。
    「セキュリティの警告 マクロが無効にされました。」
    のようなペインが(F6キーで移動していくと)表示されるので、右側の「コンテンツの有効化」ボタンを押してください。
    NVDAでExcel.xlsm ファイルのSheet1を開いた画面

    ワークシートの切り替え

    Excel のファイル(ブック)には複数のワークシートを含むことができます。
    表示中のワークシートを切り替えるキーボードショートカットは Ctrl+PageUp および Ctrl+PageDown で、これは Excel の標準機能です。
    しかし NVDA で Excel を操作しているときには、要素リストで切り替えることもできます。
    NVDA+F7 :要素リストを開く
    要素リストで Shift+Tab を押して種別を「シート」に切り替えて、ツリービューに戻って、移動したいシートの名前で Enter を押します。
    なお NVDA 制御キーを押し損なうとただの F7 キーになってしまい、これは Excel のスペルチェックの呼び出しです。
    では、教材ファイルの Sheet2 に切り替えてみましょう。

    グラフの値を読む

    NVDAでExcel.xlsm の Sheet2 の画像。日付と数値の右側に棒グラフがある
    ワークシートの中を矢印キーで移動すると「グラフ」を選択することができませんが、要素リストを使うとフォーカスをグラフに移動できます。

    1. グラフが含まれているワークシートに移動します。
    2. NVDA をフォーカスモードにします。(ブラウズモードのままだとうまくフォーカスがグラフに移動しません)
    3. 要素リストで種別「グラフ」を選び、ツリービューでグラフを選択して Enter を押します。
    4. 要素リストのダイアログが閉じて、そのグラフにフォーカスが移動した状態になります。

    NVDA+Tab を使うと、グラフがフォーカス位置であると確認できます。
    この状態で、下矢印キーを押していくと、グラフを構成する各要素にフォーカスを移動できます。
    グラフの種類やオプションによって変わりますが、以下のような要素が見つかります。

    • 系列 系列1 1の1
    • 目盛
    • データラベル
    • グラフの軸 種類 項目 グループ 主
    • グラフの軸 種類 値 グループ 主
    • プロットエリア
    • グラフエリア

    「系列 系列1」に移動した状態で、今度は右矢印キーを押します。
    すると、以下のように値を読むことができます。

    • 1月2日 363.5
    • 1月9日 418.0

    右矢印キーを押し続けて、最後までいくと先頭に戻ります。
    また左矢印キーで逆方向に移動できます。
    この機能ですが、グラフの内容やデータの形式によっては不完全だったり不自然な読み上げになります。
    例えば、日付をシリアル値(数字)として読み上げてしまう、セルの書式設定を無視して小数点以下をすべて読み上げる、といった課題を確認しています。
    今回の教材では「NVDAがうまく読み上げるように」あらかじめ手を入れてあります。

    コメント

    Sheet1 のセル B12 には「コメント」がついています。
    NVDA はコメントのつけられたセルに移動すると「コメント」と報告します。
    コメントの内容は NVDA+Alt+C で確認できます。
    また要素リストの種別「コメント」を使うと、コメントを一覧できます。

    数式

    要素リストの種別「数式」を使うと、現在のワークシートに含まれる数式を一覧できます。
    Sheet1 のセル B3 には「=B2*消費税率」と書かれています。
    「消費税率」はセル B8 につけられた「名前」です。
    名前を管理する方法は NVDA にはありませんが、Excel の機能「名前の管理」は Ctrl+F3 で呼び出すことができます。

    行と列の見出しの自動報告

    A1 から B3 にかけて見出しのついた「表」があります。
    ちょっと小さくて物足りないので、以下のように書き足してください:

    • C1: 商品B
    • C2: 200
    • C3: (セルB3をコピーして貼り付けます)

    セル B2 の数式は B8 を名前で参照しているので、C3 には 200 * 1.08 = 216 が表示されます。
    では A1 にカーソルを移動して、以下を実行します。
    NVDA+Shift+C 見出し列の設定
    列を左右に移動したときに、1行目の内容を見出しに使って「商品A」「商品B」と読み上げるようになります。
    もういちど A1 にカーソルを移動して、今度は以下を実行します。
    NVDA+Shift+R 見出し行の設定
    さきほどの列見出しの報告に加えて、今度は行を上下に移動したときにも、A列の内容を見出しに使って「金額」「税込金額」と読み上げるようになります。
    この「見出し行と見出し列の場所」を保存するときに NVDA は Excel の「名前」機能を使っています。
    (さきほど紹介した Ctrl+F3「名前の管理」で確認できます)
    この状態でファイルを保存しておくと、Excel や NVDA を起動し直しても見出しの自動報告は再現されます。

    フォームフィールド

    NVDA 2016.3 で追加された機能が「フォームフィールドの操作」です。
    Sheet1 で NVDA+F7 要素リストを開いて、「種別」フォームフィールドに切り替えます。
    「ボタン1」というボタンが見つかるので、Enter を押します。
    これでフォーカスが Sheet1 のシートに貼り付けられた「ボタン」に移動した状態になりました。
    スペースを押すとボタンを押すことができます(既定のアクションの実行)。
    教材ファイルは「こんにちは」という小さなメッセージボックスを表示しています。
    「OK」というボタンがあります。
    このメッセージを閉じるまで Excel の他の操作ができません。
    OK ボタンにフォーカスを移動してスペースを押す、
    Enterを押す、あるいはEscを押す、といった方法でダイアログを閉じてください。

    最後に

    以上、要素リストの機能を中心に、NVDA が Excel に対して提供している機能を紹介しました。
    機能の実装や日本語の翻訳など、まだまだ課題もあると思うので、なにかお気づきのことがあればお知らせいただけると助かります。
    なお Excel をスクリーンリーダーで使う場合の一般的な解説をいくつか紹介しておきます:
    視覚障害者のためのExcel 2010キー操作マニュアル
    Microsoft Office 2013 のアクセシビリティ
    Excel 2016 でスクリーン リーダーを使用する方法のヘルプ

  • NVDA 2016.4 と FocusHighlight アドオン

    この記事は Web Accessibility Advent Calender 2016 の6日目の記事です。
    5日目は「「画像置換はアクセシブル」じゃないよ、という話」でした。
    オープンソースの Windows 用スクリーンリーダー NVDA の日本の開発者コミュニティ、NVDA日本語チームの西本です。
    NVDA と Web アクセシビリティの情報提供のために Webアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) WG2 にも参加しています。

    NVDA 2016.4

    このアドベントカレンダーにエントリーした時には NVDA (本家版)の次のバージョン 2016.4 は string freeze (翻訳者向けに新機能の追加や英語のドキュメントの更新が停止された段階)に入っていました。
    翻訳者の作業締切が11月28日ごろに設定されていたことから、11月29日にリリース候補版(RC)が出て、12月6日に正式リリースになるだろうと予想し、この日を登録しました。
    ですが、なにか事情があったらしく、2016.4 RC は12月2日にリリースされ、おそらく正式版は今週末だろう、という状況です。
    本家の正式版が完成したらすぐに日本語版 2016.4jp をリリースする見込みです。
    NVDA 2016.4 で予定されている主な変更点ですが、ウェブなどのアクセシビリティを検証する開発者に便利な「スピーチビューアー」の操作性が改善されました。
    具体的には、スピーチビューアーを表示した状態で NVDA を終了すると、NVDA を次に起動したときに、スピーチビューアーを自動的に再表示するようになりました(「NVDA起動時にスピーチビューアーを表示」というチェックボックスで有効化できます)。
    直前に表示されていたスピーチビューアーのウィンドウの位置も保存されるようになりました。
    NVDA2016.4のスピーチビューアー
    スピーチビューアーと併用して、NVDAの音声エンジンの設定「音声なし」を選べば、音を出さないでキー操作や読み上げるテキストのチェックをする、という使い方ができます。
    2015年9月のセミナー資料 開発者のためのNVDA もご参照ください。
    もうひとつの変更点として、Microsoft Edge ブラウザへの対応が NVDA 2016.4 で改善しています。
    (2015年7月の Windows 10 のリリース以降、NVDA はずっと Edge ブラウザを非推奨としてきました)
    せっかくのWebアクセシビリティのアドベントカレンダーですが、私の準備が不十分であることと、「これで終わり」ではなさそうなので、Edge 対応はいずれ改めてお知らせしたいと思います。
    NVDA に関する最近の講演スライドとしては、11月3日に東京で登壇したときの資料を紹介しておきます。


    以上、前置きが長くなりました。ここから本題です。

    NVDA のアドオン FocusHighlight

    今日は、私が開発している NVDA のアドオン FocusHighlight について、やや詳しく紹介したいと思います。
    ブラウズモードの表示例(フォーカスが赤色の線、ナビゲーターオブジェクトが緑色のギザギザ線):
    www.nvda.jp でのフォーカスハイライトの利用例。In English リンクにフォーカスが、その下の「NVDAとは」にナビゲーターオブジェクトがある
    フォーカスモードの表示例(フォーカスが青色の斜線入り太線):
    www.nvda.jp におけるフォーカスハイライトの利用例。NVDAがフォーカスモードで、フォーカスが In English リンクにある

    このアドオンは、NVDA のナビゲーターオブジェクトや、フォーカスのあるオブジェクト・コントロールの場所を、色のついた長方形で強調して表示します。画面の見えにくい人、晴眼の指導者、開発者にとって有用です。

    NVDA 本家アドオンコミュニティのダウンロードページ
    開発版のダウンロードページ(GitHub)

    フォーカスハイライトに関する動画

    2016年4月に Deque Systems が Accessibility Testing with the NVDA Screenreader として YouTube動画 を公開しました。
    この中で NVDAのインストール手順の一環として Focus Highlight アドオンが紹介されました。

    2016年6月にはミツエーリンクスさんのブログ記事 「Deque SystemsがNVDAの紹介動画を公開」 でもこのことを取り上げておられます。
    多くの NVDA のアドオンは視覚障害の当事者にとって便利な機能を追加するものですが、Focus Highlight アドオンは「見えない人には一切なんの役にも立たない」アドオンです。
    NVDA のコミュニティではあまり話題になりません。
    ですが、今年はこの動画で紹介されたせいか、このアドオンについて、ちょこちょこ海外から問い合わせが来ました。
    バグ修正や改善の要望が増えてきたので、取りかかる前に、自分のモチベーションを思い出すために、開発の経緯を振り返りました。

    開発の背景

    Windows やウェブブラウザには「フォーカスの位置を示す表示」があります。もともと、フォーカスがどこにあるかは分かるはずです。
    (それが邪魔だということでWeb開発者がフォーカス位置表示を消すと問題になるわけですが。。)
    とはいえ、他のスクリーンリーダーに「Windowsの標準機能よりもしっかりフォーカス位置を強調する機能」があるので、NVDA にもつけて欲しいという話をときどき聞きました。
    スクリーンリーダーの利用者は全盲の人とは限らず、残存する視力を有効に活用するためにはいろいろな視覚的支援が必要です。
    また、本人に視力がなくても、隣でサポートをする人が操作の状況を把握しやすい、といったメリットもあります。
    一方で、私自身は、NVDA の挙動や仕様を深く理解するために、自分のためにこの機能を追加しようというモチベーションもありました。
    フォーカスは見えるからいいのですが、スクリーンリーダーが「なにかを読むために」Windowsに追加している機能(ブラウズモード、ナビゲーターオブジェクト、レビューカーソル)については、NVDA は可視化してくれないからです。
    振り返ると NVDA のコア開発者は二人とも全盲で、NVDA は画面表示については非常に大雑把か不完全でした。
    私は何度か本家に画面表示の不備や不具合の修正提案をしてきましたが、そのたびに「他に誰もいないんだなあ」と思ってきました。
    本家が 2016.4 でスピーチビューアーなどの表示に関する改善をしたのは、本家の開発元 NV Access が今年になってやっと「見える人」を雇ったから、ということのようです。
    こうしたことから「フォーカスハイライト」という名前ではあるものの、私の目標はもともと「フォーカス以外のハイライト」でした。

    2013年

    2013年5月1日に作業を開始。
    sourceforge.jp (現在は osdn.net) の nvdajp プロジェクトにチケット 31261 を作成。
    フォーカス位置のハイライト機能
    「ハイライト表示を既存のウインドウに重ねるにはどうするの?」ということで MSDN の蛍光ペンのサンプルを参照。
    四角い枠を描画するには、Windows API で4辺をそれぞれウィンドウとして描画する以外にない。仕方なくその方向性で進める。
    最初は Windows 8 の UI Automation に対応する拡張のための NVDA 本体の作業ブランチでした。
    何も考えずに4辺をウィンドウとして描画すると、それぞれがWindowsからアプリとして認識され、タスクトレイのアイコンが4つ増えてしまう。
    それを出さないようにウィンドウクラスのオプションを指定する必要がある。
    2013年5月23日
    NVDA が内部的に保持しているオブジェクト座標情報の取り出し方を変更し、NVDA のプラグインとして実装するように変更。
    NVDA 本家版と NVDA 日本語版の両方で動くアドオンを目指す。
    2013年5月24日
    Focus Highlight アドオン 0.0.1 のリリース。
    日本語のユーザーメーリングリスト nvda-japanese-users に投稿。
    本家(英語)のメーリングリスト nvda-addons ML に投稿。
    ライセンスは NVDA 本体に合わせて GPLv2 とする。
    2013年5月26日
    0.0.2 リリース。
    2013年6月4日
    0.0.3 リリース。
    やっとナビゲーターオブジェクトを表示できるようになった。
    まずフォーカスを赤で、ナビゲーターオブジェクトを緑で表示。
    0.0.4 リリース。
    フォーカスとナビゲーターオブジェクトが一致しているときに、赤い表示だけを行うようにした。
    2013年6月20日
    0.0.5 リリース。エラー処理などの改善。
    2013年7月7日
    本家アドオンコミュニティに登録されることになり NVDA Addon Team にレポジトリが folk される。
    2013年8月4日
    readme.md がついて本家アドオンコミュニティから公開される。
    2013年8月27日
    本家 NVDA の issue で言及される
    2013年10月22日
    NVDA 翻訳チームの作業 英語+日本語+10言語の readme.md および 英語+日本語+11言語の nvda.po がマージされる。
    当時アドオンコミュニティに登録されたアドオンの翻訳とリリースは、アドオン開発者の手を離れ、アドオンコミュニティのリリース担当者に委ねていた。
    2013年11月12日
    1.0 リリース。本家アドオンコミュニティでの扱いが「安定版」になる。
    このころ報告されていた不具合:
    Windows 8.1 「すべての項目のサイズを変更する」対応
    NVDA本体が2014.1でDPI-Awareになって解決したはず。

    2014年

    2014年1月25日
    バージョン 1.1 をリリース。
    ナビゲーターの緑のマークをハッチブラシに変更し、色の区別がつきにくい状況への配慮を行った。
    アクセシビリティについては人に教える立場だと思っていたのですが「赤と緑の区別がつきにくい人」への配慮を怠っていることに気づきました。
    色を変更するといろいろたいへんなので Windows API のブラシで「ギザギザ線」などを導入しました。
    2014年5月4日
    プラグインの再読み込みでエラーが起きないように修正。
    2014年8月5日
    フォーカスモードを視覚化。
    フォーカスモードの場合にフォーカスを青いハッチラインで描画するように変更。
    NVDA+スペースで NVDA のフォーカスモードとブラウズモードが切り替わるのですが(さらに決まった条件で自動切り替えするようにもなっていますが)、このモードの違いを意識しないと NVDA でのWebブラウザ操作はうまくいきません。
    フォーカスハイライトでフォーカスモードが簡単に把握できれば、音声出力をミュートしていても楽に扱える、と思いました。
    2014年9月15日
    バージョン 2.0 をリリース。
    このころアドオンコミュニティのバージョンナンバリング方針がかわり、機能アップデートはメジャーバージョンアップ、翻訳アップデートはマイナーバージョンアップ、ということになりました。
    2014年12月4日
    アドオンコミュニティの作業フローになじめないでいたら、私にかわってバージョン 2.1 (translation updates) を NVDA Addon Team がリリースしました。
    2014年12月29日
    NVDA 2015.1 でオブジェクトの座標情報を取るための方法が変わるので、前もって互換性の改善をコミット。

    2015年

    2015年1月18日
    2.1 がリリースされたのに readme.md に changes for 2.1 がなかったので改定するコミットを私が行う。
    こういうこと私がやらないといけないなら、いまのコミュニティの作業フローってやっぱりおかしくない?と不審に思う。
    2015年1月18日
    本家の翻訳者メーリングリストで、アドオンコミュニティWebサイトの翻訳について質問が出る。
    例えば stable focusHighlight-2.1 と development focusHighlight-1.1dev があるのはなぜ?みたいな問題提起をされる。
    それはリリースとコミュニティWebサイトとレポジトリの readme.md 更新のワークフローが混乱してるからじゃね?と内心思う。
    2015年1月18日
    次は 2.2 でなく 3.0 を出したいとアドオンコミュニティのメーリングリストで宣言しました。
    2015年1月21日
    stable focusHighlight-2.1 と development focusHighlight-3.0-dev がコミュニティサイトに掲載された状態になりました。
    2015年4月12日から4月27日
    リファクタリングをしていたつもりが、ウィンドウのオプションの変更が裏目に出て、タスクトレイにアプリケーションのアイコンが出てきてしまう。
    本家に不具合報告(4961)されてしまい、慌てて元に戻しました。
    2015年5月31日
    本来は画面に追加情報を表示するだけで、アプリのフォーカスの挙動に影響を与えないはずのアドオンが、コンボボックスの挙動を変えてしまっていることが判明。
    focusHighlight 利用時のコンボボックスの値の変化の通知
    苦肉の策でコンボボックスのフォーカスだけアドオン側で制御しなおすワークアラウンドを実装。
    2015年6月1日
    focusHighlight-3.0-dev-150601 スナップショット
    2015年7月24日
    3.0 正式リリースに向けて addon_url の値を https://github.com/nvdajp/focushighlight に変更。
    アドオンの置き場も nvda.jp に変更した。
    https://www.nvda.jp/addons/focusHighlight-3.0.nvda-addon
    2015年8月1日
    アドオンコミュニティのリンク更新してもらい 3.0 をリリース。
    2015年8月27日
    バージョン 4.0 に向けた作業開始。
    NVDA 2014.4以前との互換性の不具合を再修正
    2015年10月22日
    バージョン 4.0-dev-151022
    2015年10月25日
    NVDA がスリープモード(デスクトップ配列で NVDA+Ctrl+S, ラップトップ配列で NVDA+Ctrl+Z)の場合にフォーカスハイライトの表示を消去するように変更。

    2016年

    気づいたら1年くらい放置していました。
    2016年10月2日
    GitHub Releases を使い始める。
    バージョン 4.0-dev-161002

    反省と今後

    NVDA 日本語ガイドブック には公式ドキュメントに書かれていない NVDA の仕様がいろいろ含まれています。
    例えば 4.1 「レビューカーソルの使い方(前編)」で「NVDA+B = アクティブウィンドウの読み上げ」がレビューカーソルを勝手に動かす、と説明していますが、これはフォーカスハイライトのおかげで気づいた挙動です。
    また、NVDA のタッチディスプレイ対応が実はレビューカーソルの移動であるということも、フォーカスハイライトで確認できた仕様です。
    NVDA日本語版の開発においても、JTalkの読み上げ位置情報の修正ATOK候補コメントへの対応などでフォーカスハイライトが役立ちました。
    Firefox などの Web ブラウザでは、ブラウズモードで上下矢印キーを押すと緑ギザギザ線のナビゲーターオブジェクトだけが移動し、リンクやボタンなどにぶつかるとフォーカスの赤い線が移動するのですが、こういう基本的な挙動も、フォーカスハイライトがあれば安心して検証できます。
    とはいえ、キーボードを使わずに(例えばマウスホイールで)ブラウザがスクロールした場合には、ハイライト位置はうまく更新されません。
    マルチディスプレイの環境でも不具合があることを把握しています。
    また気になるのは、どうやら Windows 10 の Insider Preview だとギザギザ線がうまく描画されないようです。さすがにこんな昔の Windows API の仕様はいずれ廃れていくのかも。。
    現在はこのアドオン用の GitHub Issues を使って、海外のユーザーからのフォードバックを得たり、進捗を報告しようとしています。
    本家アドオンコミュニティとの関係について触れましたが、2016年の夏から秋にかけて、アドオンコミュニティが翻訳のマージやリリースを取り仕切るのをやめて、各アドオンの開発者に権限と責任を委譲しよう、という方向性になっています。
    他のアドオンと違って、コミュニティの中でレビューされることが少なかったのがフォーカスハイライトの悩みでしたが、今後は Web 開発に関わるユーザーからのフィードバックを尊重しながら改良やリリースを進められると思います。
    もし NVDA のアドオン開発に興味があれば、NVDA 日本語チームの運営するメーリングリストもご利用ください。
    西本宛の私信での相談やご依頼は、無償では対応しない方針ですのでご理解いただければ幸いです。
    追記:
    ブログを書いたらやる気が出てきたので、フォーカスハイライト 4.0 を正式リリースしました。
    追記(2018年12月4日):
    バージョン 5 以降のフォーカスハイライトでは描画に GDI+ を使っています。いわゆる「高DPI」サポートが従来のAPIでは困難になってきたからです。

  • 電子工作のためのPython: MicroPython on the ESP8266

    2016年11月12日に PyCon mini Hiroshima 2016 を開催しました。
    開催報告記事は準備中ですが、まず私の発表を紹介しておきます。


    作ったプログラムと回路図
    準備のためにいろいろ実験していた記録
    過去のIoTLT広島での私の発表の記録
    録画(YouTube)
    質疑応答の時間に「産業界での利用状況は?」というコメントがあり、産業界というよりも教育分野での盛り上がり(BBC micro:bit 対応など)のことしか触れなかったのですが、Damien George さんの講演(YouTube GOTO2016 の動画)では「宇宙開発への応用のための SPARC 移植版」などに言及されていました。開発者がもともとそういう分野の出身なのだそうです。思い出せなくてすみませんでした。。

    私の発表では ESP8266 での動作状況だけをお話しましたが、もともとのターゲットである PyBoard などの ARM 系 CPU については、実行時にバイトコードではなくCPUのネイティブ命令を生成する機能など、性能を上げる処理がいろいろ実現されています。
     


    このブログ記事では、今回の発表をどのように準備したかを簡単に振り返っておきます。
    まず9月末に ESPr One を入手し、MicroPython の書き込み、動作確認をしました。
    そして手頃なセンサーやデバイスをいろいろESP8266の入出力につないでMicroPythonで動かしてみました。
    明るさセンサー(NJL7502)は「IchigoJamではじめる電子工作&プログラミング (I・O BOOKS)」で紹介されていて、いずれ遊ぼうと思って入手していました。
    また圧電サウンダ(ピエゾ圧電ブザー)は IchigoJamU に付属していたものをそのまま拝借しました。すでにモデルチェンジしているようなので、現在購入できるモデルにブザーがついているかどうかはわかりません。

    超音波センサーHC-SR04は5月にソラコムのハンズオンをやった(IoTLT広島で紹介済み)ときのパーツです。
    ESPr Oneからは5Vと3.3Vの両方の電源をとることができます。
    HC-SR04は5V駆動で、ESP8266のGPIOは(Arduinoと同じ)3.3Vとのことなので、ECHO の入力側は抵抗で分圧しています。
    こういうのは “Arduino 3.3V HC-SR04” で検索すると見つかるので、人気のあるパーツを選ぶと便利ですね。
    MicroPython for ESP8266 の Quick Reference にはデジタルの入出力方式として SPI, I2C, OneWire が紹介されています。
    今回 SPI は手頃なパーツがなかったので実験しませんでした。
    I2C でつないだのは小型のディスプレイ(OLED)です。
    MicroPython のライブラリや Adafruit のサイト記事や動画を見て SSD1306 というドライバーのものが簡単に使えると知ったので安価なものを Amazon で探しました。
    TonyDさんは ssd1306.py を組み込んでビルドし直していますが、MicroPythonのソースに入っているドライバーファイルをWebREPLでアップロードすればそのまま動きました。メモリを節約したかったら組み込んでビルドしたほうがいいと思います。


    OneWire は Quick Reference に書かれていた温度センサー DS18B20 をすでに入手していました。
    Arduino や Raspberry Pi などの書籍や記事でよく出てくるパーツだったので買っておいたのでした。
    手で触ると体温で温度が上がるのはわかるのですが、実際に組み合わせて使い道を思いつかなかったので、マイコンの起動直後に温度を表示して、18度から20度までの範囲だったら “good condition” と表示する、みたいな「しょうもない」使い方しかしていません。
    OneWire はプルアップの抵抗が必要なのですが、ESPr One のボード内の(おそらくは Arduino のプログラミングモード切り替えのための)抵抗をそのまま使えるように GPIO のポート番号を選びました。
    ESPr Oneにはスイッチがあって GPIO で値を読むことができますが、ボードをケースに入れてしまったせいで、細い棒のようなもので突かないと押せません。

    じゃあ光センサーと超音波距離センサーをスイッチの代わりにするか、ということで、全体を「光線銃ゲーム」に仕立てることに決めました。
    光センサーを「懐中電灯を当てたときに閾値を超える」ように AD 変換で使う抵抗の値を選び、超音波センサーは「距離測定を3回実行して80センチ未満が1回以上あったかどうか」を判定することで誤判定をなるべく回避するように実装しました。まあ誤判定しますけど。。
    ゲームにつきものの乱数は MicroPython の math にはなくて os.urandom で得られるランダムなバイト列を使いました。
    MicroPython の PWM は LED の明るさを変える目的で使われると思いますが、ここでは LED と圧電ブザーを並列につなぎ、メロディを流すのに使いました。
    性能が足りないのか精度が足りないのか、高い音は綺麗に出ません。
    音が出ているときはLEDも光ります。音を止める時は duty=0 にして信号が0になるようにしています。
    ゲームそのものの実装とデバッグは本番直前の2〜3日でやりましたが、よく考えると(電子工作やマイコンに親しんでいた子供時代を含めて)人に見せるために電子工作やミニゲームを開発したのはこれが初めてだなあ、と思いました。
    私が子供のころの電子工作はハンダ付けで組み立てるのが普通で、ブロックを組み合わせるような電子工作実験回路を羨ましく思ったものでした。
    いま、こういう回路がブレッドボードで簡単に組み立てできて、入出力デバイスもモジュール化されて、マイコンとデジタルで繋がって、しかもPythonで対話的に開発、実行できる。
    いい時代になったんだな、と素直に思った、そんなこの数日間でした。
    私に懐かしい世界を思い出させてくれた IchigoJam も好きですが、MicroPython と ESP8266 も、教材が充実してくれば、子どもの遊びやプログラミングの教育に使えるのではないでしょうか。