投稿者: nishimotz

  • アクセシビリティのアンチパターン

    2月27日、NHK放送技術研究所で行われた「視覚障害者向けマルチメディアブラウジング技術の開発」というシンポジウムに参加しました。ディジタル放送のバリアフリー研究開発についての情報通信研究機構の委託研究の成果発表でした。

    視覚障害を持つ方の多くがテレビを情報源にしている、という現状があるのですが、ディジタルテレビ放送のデータ放送にはスクリーンリーダーのような技術が存在しません。このような現状を解決するために、音声ブラウザの技術、点字ディスプレイや触覚ディスプレイなどの技術を応用した興味深い技術報告とデモンストレーションが行われました。

    そのことはとても意義のあることだと思ったのですが、一方で私が感じたのは、そもそもディジタル放送という技術をもっとユニバーサルデザインで設計できなかったのだろうか、放送情報の作り手がもっとアクセシビリティに配慮することができないのだろうか、ということです。

    データ放送に使われるBMLはDynamic HTMLの技術がベースなのですが、ECMAScriptで動的に制御することに特化していて、pとdivとobjectしかタグがないのだそうです。意味的な構造を記述するタグがないので、たとえ情報を取り出せたとしても、音声や展示で提示するためのナビゲーション操作ができません。

    だから、放送局でBMLの画面を作った後で、それに合わせて意味的情報を取り出すための「後処理用データ」を作って、受信側に送る、という仕組みが開発されています。XPathなどを使ってテキストエレメントを取り出して、視覚的構造から意味的構造をごりごり抽出するわけです。

    どうにもスマートじゃないと思うのですが、放送の現場で最初から「意味的構造でマークアップされたデータを作成する」というのは難しいのだそうです。

    新しい技術が開発されるたびに「アクセシビリティのアンチパターン」というべきものが繰り返されているように感じます。

    そんなに歴史の古い技術でもないはずのディジタルテレビが、こんな方法でしかアクセシビリティを確保できないのは、技術よりも思想に問題があったとしか言いようがないように思います。

    セマンティクスを無視して低レベルのインタラクションを記述するような、スクリプト言語での制御に過度に依存するような、そんなマークアップ言語を設計してしまうと、ユニバーサルデザインが損なわれる。こういうことは、新しい技術を開発して標準化する人が、教訓として持つべきではないでしょうか。

    そういえばテレビもラジオも、もともと受信機を自作できるくらいオープンなインフラだった、ということをふっと思い出しました。

    いまやテレビは、データのコピーさえ自由にできないインフラになっています。ブラックボックスをアクセシブルにすることがいかに難しいか。。。

    ラジオが相変わらず、受信機を自作できるくらいオープンなインフラであることは、いいことだなあ、と思ったりもします。

  • 福祉情報工学関連リンク集

    福祉情報工学研究会の研究専門委員の方々に、参加している学会・研究会・会議を挙げていただき、リンク集を作成しました。学会の開催予定なども分かる範囲で記載しました。下記で公開しておりますので御活用いただければ幸いです。

  • 島根県CMS

    2002年に、ラジオフライでは音声合成を用いたインターネットラジオ番組「ラジオフライマガジン」の制作を行いました。ラジオフライのメーリングリストでのやりとりが、編集の達人・デーブ川崎氏によって、月刊ウェブマガジンとしてまず公開されました。それを私がHTMLから音声合成用のファイルに編集し直して、合成音声と効果音とテーマ音楽を使った、約1時間分のMP3コンテンツとして公開されました。この編集作業は数ヶ月続けて、技術実験としての目的を達成しつつ(メンバーの多忙もあって)終了しました。

    こんなことをやった背景は、それまでの数年の活動で得た「インターネットラジオ番組を誰でも配信できるようになったけど、コンテンツを定期的に作るのは大変である」という経験からの着想でした。

    そして、たまたま「こんなことやってるんですよ」と、ラジオフライマガジンを(当時発売されたばかりの)Apple iPod で聞かせた相手に「これはいいね」と言われ「ユビキタスラジオ」の開発が始まりました(と私は思っているのですが・・)。

    最近、ネットワーク応用通信研究所からソースが公開された「島根県CMS」が注目を集めています。

    しかし「ウェブサイトに読み上げ機能を持たせるのは、アクセシビリティのことを誤解した邪道なシステムだ」という意見も聞かれます。

    恥ずかしながら、私は最近まで、島根県のウェブサイトで音声合成システム GalateaTalk が使われているのは知っていましたが、どのように使われているのかちゃんと知りませんでした。そこで島根県のウェブサイトを見てみました。

    右上の「よみあげ」が index.m3u へのリンクになっています。立ち上げると開くのはデフォルトで関連づけられたメディアプレイヤーです。

    島根県CMSの機能は、よくある「ActiveXで音声合成機能をクライアントにインストールしてしまうシステム」ではありません。そんなことをしてしまうと、なんのために「ユニバーサルなメディアとしてのテキスト」を公開しているのか分からなくなってしまいます。島根県CMSの機能は「ウェブアクセシビリティ」と呼ぶべきではなく、もっと別のメディアだと考えた方がよいと思うのです。

    つまりこれは、HTMLというテキスト情報に「インターネットラジオ番組」という新しいメディアを付加し、両者を効率よく制作・配信するシステムなのだと思います。それはまさに、私が「ラジオフライマガジンをもっと効率よく制作したい」と思いながらほったらかしていた、私が欲しかった機能なのです。。

    そう思いながら、島根県ウェブサイトの読み上げを聞いていると、別の問題が明らかになりました。つまり GalateaTalk の基本性能としての「読み付与」や「音声の明瞭性」などがよくないのです。無償だからといって、これは GalateaTalk の評判を下げてしまっているのではないかと。。でも、郵便番号を日付のように読み付与してしまうのは、使い方を工夫すれば解決するのでは。。

    GalateaTalk は何度か商用化の打診があり、私もいろいろ頑張ったのですが、商用レベルの品質に持って行くには相当な努力が必要である、ということで断念した経緯があります。しかし、島根県CMSがGalateaTalkのキラーアプリの一つになれば、状況は変わるかも知れません。 島根県CMSの音声読み上げの改良にも取り組んでいかなくては、と思いを新たにした次第です。